詩誌「詩人散歩」(平成21年冬号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  あさぼらけ                 浪 宏友

悪魔が跳梁する夜
息をひそめて耐え続けてきた
複雑に歪んだ闇いっぱいに
漆黒の顔貌がどす黒く笑っていた

響きわたる怒声が我が身を切り裂き
押し寄せる怒濤に弄ばれ
為す術なく放り出され
叩きつけられ
起き上がる方向も分からずのたうちまわった

這いずり回る渦の中
気づけば握りしめていた柔らかな手
出ぬ声を掛け合いながら
見えぬ顔と顔を見つめ合いながら
激しく転がされながら

やがて
朝日が街を浮かび上がらせる
ゆるゆると立ち上がる光の中に
陽炎のように立ち尽くす影ふたつ
あさぼらけのなかに紛れていた

  すすきの中で                中原道代

赤く割れたざくろの実
秋は里にも降りて来た
いつもの河原に腰かけて
子供の姿を眺めてる
蝶を追いかけ
ばったを追いかけ
すすきの間を駆け巡る
子供たちの笑い声
豊かな水の音
暖かな日差し
ふと思う
黙々とただ急いでいたあの頃を
今、私の眼差しは穏やかだろう
秋の風に尾花がしなやかに揺れている

  曼珠沙華                  中原章予

カタンコトン カタンコトン
仏の教え求めて 今日も又
教会へ向う
汽車にゆられてなにげなく
車窓より外へ目をうつす
黄金色にみのり
頭をたれて稲穂をめでるが如く
真赤に咲き乱れし
曼珠沙華 ふと思う
若き日は御教えに真赤にもえて
老いて今少しずつしぼみつつ居る
秋の風が冷たく身にしみて
涙 ほほをつたう

  成長                    伊藤一路

子供が一歳を迎えた
子供の成長ぶりは驚く程早い
昨日できなかった事が
今日はできるようになっている
昨日理解できなかった事が
今日は理解できるようになっている
この一年の変化は凄い

私も父として一歳を迎えた
昨年の私と今年の私
子供程の成長があったであろうか
挑戦し続けないと勝ち目はないな

負けないぞ!

  好きな季節                  山本ルイ子

秋は寒いのに
どうして葉は赤や黄色に色づくのだろう。
秋は寒いのに
どうして食欲が出るのだろう。

秋になると
どうしておしゃれをしたくなるのだろう。
秋になると
どうして人恋しくなるのだろう。

けれど、私はそんな秋が好きだ。

そして また 一年“早いなぁ”と
心の中でつぶやいてしまう・・・

  愛の道                    山本恵子

身も心も安らぎて
コタツに入って筆をとる
遠くの空に思いをはせ
愛する人が目に浮かぶ
人の一生明日も知れず

綴る指先思いを込めて
自分の命も遠くの空に
輝く星に伝えてよ
いつか会う日の道づれに

胸の痛みは風にのり
ネオンの空にとんでゆき
笑顔で会って言葉なし
ただ聞えるは靴音のみ

  小品三題                   大戸恭子

  信仰と食生活

私たちは生きる為に良く食物を神!
そして、その生活を保ち続ける為に
良く釈迦、釈迦と歯を磨く必要がある!

  疲労感

ペッタリ ペタペタ 万年布団
グッタリ グタグタ 私の体
見分けがつかない 豆電球

  われら寄生虫

電車が地球の上を走る様に
キャベツの上は青虫がむしばむ
その青虫に寄生する虫もいるというから人間、われら寄生虫?

   小さな懺悔                 織田信雄

夕食後に風呂に入るのが楽しみだ
なみなみと満たされた風呂の湯に
さらに平和な明日を夢見て
毛むくじゃらの足が浸かっている
私の醜い足

スーダンの紛争のなかで
少年の黒く澄んだ瞳は見つめる
彼は知っているだろうか 生きているなら
日本人を 私を 私の醜い足を
風呂桶になみなみと満たされた温かい湯を

薄汚れたわずかの布を身に纏い
飢えた痩身の少年に
スーダンの草原に
真っ先に差し出すべきは殺人者の魂ではない
醜い足が隠し持っている魂なのだ

私は明日捨てるだろう
二百リットルの少しばかり汚れた湯を
たとえ洗濯に利用したとしても