詩誌「詩人散歩」(平成22年冬号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  叫 び                   浪 宏友

渦巻き 燃え盛る 炎の底から
かぼそいすすり泣きが漏れてくる

風を招き 猛け狂う 炎の底に
蹲り 肩震わせる 白い裸体が見える

振り仰いだ顔が 恐怖におののき
ひとかけらの涙がきらめいたように見えた

空が 煮えたぎり
  地面が 反りかえり
炎の響きが にぶいろの刃物となって
積み重ねてきた日々をずたずたに切り苛む

立ち上がろうとして 足を踏みしめ
またも崩れて 悲しく身悶える白い裸体に
ひとかたまりの炎が 襲いかかる

そのとき耳をかすめた微かな叫びが
深い静けさに染み渡り
今もなお
ときを隔ててよみがえりつづける

  秋の夜                   中原道代

居間にカサブランカが香っている
静かな夜が戻ってきた

弾むおしゃべり
笑い転げる子供
みんなの顔が和んでた
風呂場で歌う小学生
自分の世界を広げていく
ゆっくりだけど確かなもの
芽生えた宝を見守ろう

今日の終りに少しのお酒
しみじみと暖かい
握手で別れた可愛い手
またあした!

  結 婚                    大戸恭子

それが原石だったとは
誰も気づかないでしょう
それがダイヤモンドの
原石だったとは……
でも、私はそれを
手に入れてしまった。
磨いて 磨いて
光が少しでも差したなら
キラッと輝く石よ
幸せはなるものではな
く 感じるもの
少しでもチャンスがあったなら
貴方は輝くのね
私は原石を手に入れてしまった。
磨いて 磨いて
二人で幸せを感じたい

   海                     織田信雄

海は希望の輝きを知らない
希望を求めてやまない人間の
叫びを静かに受け止める

海は絶望の暗黒を知らない
絶望に打ちひしがれた人間の
叫びを静かに受け止める

海は人間の言葉を知らない
人間のぎりぎりの言葉を飲み込んで
ドドーンと鳴っている

海は自然の持つ力を知っている
疲れ果てた人間が砂浜に坐ると
ザザーン ザザーンと砕ける波が
人間の疲れを遠く沖合いへ持ち去ってゆく

海は人間の際限のない欲望を知っている
海の嵐にじっと聞き入っていれば
人間はみずからの欲深さをよく知ることが出來る

  優しい事                   伊藤一路

人に優しくなろう
その人の為に本当に優しくなろう
本気でその人の事を考えて‥‥
厳しくする事 見守る事 見放す事

喜ぶ事 悲しむ事
全ての優しさを与えよう

それができたら
自分に一番優しい何かに包まれるだろう

  甥っ子                   山本ルイ子

私の大好きな甥っ子は、小学三年生。
野球部。B型のおうし座。

秋になると、甥から運動会で一番に
なったとメールが来る。
私はあわててプレゼントを
買いに行く。

それが何年か前からの年中行事になっていた。
しかし今年は違う。

「はい、これおみやげ」と甥が私にくれた。
私は涙が出そうなのをこらえ、私も甥に
プレゼントを渡した。
甥のうれしそうな顔を見て
プレゼントをあげる人、もらう人
どちらも幸せな気持ちになると
あらためて気づかされた。

  畠の生きがい                 山本恵子

畠仕事は楽しいけど
暑さ厳しく手の痛み
無理せず帰ろう ごくろうさま

照りずいか黒と縞大きいね
造る喜びこゝにあり
今年は恵まれ地震あと

年とりて仕事なく手はしわだらけ
老後の健康 豊作と笑うこと
明日に 向かって予定組む