詩誌「詩人散歩」(平成23年夏号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  手                     浪 宏友

だいじょうぶかい
うん だいじょうぶ

まっくらだね
うん なんにもみえないね

手をつなごう
うん わたしの手

あったかい
うん あったかい

さがさなくちゃ
さがすって なにを

なんだろう でも さがさなくっちゃ
そうだね さがさなけりゃ ね

歩けるかい
うん 歩けるよ

手をはなさないでね
うん はなさないよ

ずっと つないでいようね
うん ずっと

行くよ
行こう

みつかるといいね
うん きっと みつかるよ

  定期演奏会の日               中原道代

ホールの窓ごしに
のどかな風景が広がっている
遠くの海辺の風景は今…
大ホールに
高校生のオーケストラ鳴り渡る
フルートの澄んだ音色
コントラバスの力強い響き
それぞれが溶け合って美しい色になる
重い心がほぐれていく
ブラボー! ブラボー!
鳴りやまぬ拍手
頼もしい彼らの力が伝わった
ロビーで募金呼びかけの声
真心の輪が広がっていく
帰り道
足元のタンポポを愛でながら歩く

  四季のつぶやき                大戸恭子

誰と会う 君と会うなら いいけれど
愛別離苦に 怨憎會苦に

冬の空 その上を行く 春便り
つぼみたちには 配られている

U2の 調べを聴いて ふりかえる
あの頃はただ 世紀末調

生きて来た ひとすじの道 梃子(てこ)にして
明日の扉 ギリリと開く

おばさんだ 写し方が 悪いと思い
消去してみて も一度写す

マニュキュアを また失敗して ぬり直し
乾く時間は 出かける時間

  空                      織田信雄

雨が降っている
空は泣いているんじゃない
悲しみなんて
そんなちっぽけなものじゃない

ありのままで 何の飾り気もない
はるかな厳しさを背に
何というそっけないやさしさ
我々の生贄のようだ
あるいは
我々に向けられた
切れ味のすさまじい刃(やいば)のようだ

大きく見開かれた目の色は
真っ青であったり
黒灰色であったり
するけれど
人間のこころを決して見逃さない

人間が大気を汚しても
よこしまな人間が増殖しても
人間の悲しみや喜びや怒りのためでもない
大きく見開かれた目の色が変わるのは
すべての生き物の悲しみや喜びのためでもない

生命の芽生えた五億年を超えて
存在し続ける空は
この一瞬にもすべてを投げ打って
存在していてくれる

雨が降っているのは
悲しいからなんてものじゃあない
空は 悲しみから遠く
はるかな旅の途中だ

   暑い日々                  山本恵子

久しぶり 鉛筆とりて
手が進み 痛さもあるけど
たのしみ時間花生けて

暑さ厳しくかれてゆく夏野菜
あわれ姿と胸を流れるあせ
水やりて一時はよいけど先たたず
さといもかれてみるかげなし
月見にあげる野菜なし
変わった野菜考える月

   思いよ届け                山本ルイ子

歳のせいなのか
言葉が違う人とちゃんと会話がしたくなった。
同じ人間だから思いがあればきっと通じる。
慣れない単語ならべてみたり、
身振り手振りでジェッシャーしてみたり
そんな思いは相手にも届く。
慣れない単語ならべてみたり、
身振り手振りでジェッシャーしてみたり。
相手も話したいと言う思いが伝わってくる。
だからアメリカもイギリスも、
そして宮城も福島もみんな同じ仲間だから。
強く生きて! 思いよ届け!

  歩こう                    伊藤一路

歩いている
確かに歩いている

ただし足元を見て歩いている
足元を見ている筈なのにつまずく
本当は遠くを見ながら歩いている方が
つまずきそうなのに
足元を見ているときの方がつまづく
そしてぶつかる
遠くを見ていないからぶつかる

五感を使って歩こう
目で見ているだけではつまずく
目は閉じていても歩ける
肝心なものは
目には見えていないのかもしれない
しっかりと歩こう
前を向いて