詩誌「詩人散歩」(平成23年冬号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  影                     浪 宏友

焼けただれた大地に
透明な影が立つ
主のない声がさまよい歩き
おびえた風が曲がり角から出てこない

静まり返った大地に
透明な影が立つ
重たい空気のかすかなどよめきに
古い傷あとが痛みだす

歩いても 近づかないのは
手をさしのべても 届かないのは
大声で叫んでも 聞こえないのは
次元の異なる部屋の中に
くつろいでいるからなのか

支えのない大地に
透明な影が立つ
忘れられた光がマリンスノーのように降り積もり
隔てられた世界が虚構のひび割れから漏れだしてくる

空っぽの大地に
透明な影が立つ
ゆっくりとこちらに顔を向けるけれど
現れない表情を確かめることはできない

  いのち                   中原道代

駆ける子供の後追って
野原に出れば秋の風
子供は早速シャボン玉
ストロー吹けば
たちまち大道芸人だ
虹色の光の粒が風に舞う
風に舞ってはじけて消える
きれいだなあー 足を止めた老夫婦
ありがとうを残して立ち去った

遊びに飽きた子と手をつなぎ
家路につけば目の前に
色鮮やかなけやきの木
ひと葉ひと葉にいのち輝く
やがて木枯らし連れ去る日まで

私の道は まだまだ遠い

  やすこ                    大戸恭子

私の事をいつも
「やすこ」って呼ぶ人がいる。
この年になって……
でも、それが妙に嬉しい。
もう、この世に「やすこ」って
呼んでくれる人は
親を含めて
二〜三人しかいない。
「やすこ」って呼ばれると
こんな所で咲いてるのねって
言われた花の様に
「はい。」って
いつもその人に微笑みかえしてる。

  戦争                     織田信雄

白の世界も
黒の世界も
神様は創られなかった

戦争だって神様の眠っている間に起きたのだ
神様の代わりのつもりで
人間が白か黒かを決めようとして

感情と理性がないまぜになって
ひとつの個体の中に納まらなくなって

戦の引き金はいつも
理想と現実が極度に乖離したところにある

誰が助けてくれと言ったのか 言わなかったのか
誰が銃をくれと言ったのか 言わなかったのか
カガイシャとヒガイシャの両面でゆがみ

指揮者は賭博(ばくち)が大好きで
無用のサイコロを投げたがる

そして神様が目を覚ます前に
一番に賭博から逃げ出す

   すぎし思い出                山本恵子

台所仕事夢中の時
ヤイ ヤイ と主人の声
走って 寝床は 誰もいない
写真だけが私をみつめて

とめどなく涙が流れ足すくめ
病院から帰ると血圧下がり
一日おきに夕方まで足あげ
つらかった日々を思い一人泣

二人で病院外は畠仕事早朝
帰ると朝食ビール半分
最高にうまい 働くとうまいね
そうだね 元気で長生きしようと話合い

   花の心                   山本恵子

今年は花種内地から主人買求め
美しい花が咲き一人ボッチで歩き
四十分間歩いて畠に着いた
花が咲き心をいやしてくれた

あなたありがとう帰ったら
仏前にかざるたのしみが出来
私の心のささえの花になり
来年も作って咲かせるね ありがとう

   成長するという事             山本ルイ子

赤ちゃんは目で初めて物を見る 初めて耳で音を聞く
寝返りを覚え ハイハイを覚える
歩く事を覚え 言葉を覚える

子供は勉強して 色々な事を学ぶ
たし算やひき算 漢字や世界地図
学ぶ事たくさん 知りたい事たくさん

けれど大人は覚えた事どんどん忘れていく
人への思いやりや 悪い事をしたら謝る事
大人だから・・・ 言い訳ばかり
大人なのに・・・ わがままばかり
私も言い訳ばかり・・・ わがままばかり・・・
成長したい いい大人になりたい

成長するという事は これからもずっと
人にやさしく 自分に厳しく 前に進む事
そして何十年後かに 家族と一緒にお茶をすすり
『ハァー』って 幸せの声がもれる事かなあ

  子育て                    伊藤一路

息子に出会えてから三年が過ぎた

自分の息子はどんな大人になるのだろう
息子をどんな風に育てたら良いのだろう
そんな思いから
これまで何冊もの育児本を読んできた
じっくり読んでみた
そして気付いた事が一つだけある

子供は育てるのではない! 育つのだ!

こんな大人になってほしいと願ったら
自分がそんな大人にならなくてはならないのだ
自分がなれば良いのだ
それだけで良い気がする
自分をちゃんと育てられたらちゃんと育つ

今三歳になった息子を見て思う
自分の通信簿だと‥‥‥