詩誌「詩人散歩」(平成24年春号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  遠ざかるきみ                    浪 宏友

静かを装っていたけれど
きみのなかは爆発していたんだね
やさしく広がる牧草の下の
思いも寄らぬ深い地底に
灼熱のマグマがのたうっているように
きみの奥にも煮えたぎった思いが波打っていたんだね

ぼくは そんなことは知らないから
素知らぬ素振りで きみの前を通りすぎ
きみに背中を向けてしまった
僕の前にはたくさんの事件が揺れ動いていたので
きみのことなど忘れることもしばしばだった
そんなぼくをみつめながら
きみは 黙って立ち尽くしていたんだね

ふと 振り返ったぼくの目に
立ち尽くしたまま遠ざかっていくきみが見えた
何ごとがおきたのか分からないまま
ぼくは凍りついてしまったけれど
なにもかも放り出してきみを追いかけはじめたときには
きみは はるかな向こうの小さな点になっていた

あれからぼくはきみを探してさまよっている
ぼくの脚にからまるたくさんの事件を
ふりほどき ふりほどき 歩き続けるけれど
ぼくは きみに
  追いつくことができない

  三寒四温                  中原道代

雲から太陽が顔を出した
冷えた家々の壁を温めていく
凍える私の背中にも降り注ぐ
樋を伝う水の音が聞こえる
私はゆるゆると立ち上がった
背筋をそっと伸ばしてみる
体の内に暖かなものが込み上げた
優しい眼差しを自分に向けてみた
今の私 元気が出ない。
そのままを受け止める
そこが私の出発点
笑顔のお裾分けができる私になりたい。
行きつ戻りつを繰り返し
明日の自分に繋げていこう

また小雪が舞っている

  ミスト                    大戸恭子

オーラも無い。
パワーも無い。
どこかフレッシュな感じも少ない。
でもね、貴方からはミストが出ている。
やさしくて、濃やかで、傷つけないミスト。
浴びるだけで心も身体も
リフレッシュされる様な、
いやなことがあっても
リセットされる様な、
悪い事をしても
メンテナンスされる様な。

そう、貴方の名はおじいさん、おばあさん。

  夕ぐれ                    織田信雄

ある冬の日に
コタツでみかん、うたたねしていると
新聞に阪神大震災被害者が
復興住宅の一室で
『ここは都会の墓場だ』
一年前に孤独死した八十歳の声である
夕方
よく晴れた空を見上げると
宵の明星がしだいにくっきりしてくる
今日も大過などなく
昨年の東北大震災を思う
急にボランティア活動を
検索する気になる

   さりし夜                  山本恵子

光ちゃん他界し 長い年月
一人ぼっちでさみしかったね
父ちゃんも他界し 早七カ月
二人で逢えて話合いできたかしら

母ちゃん畠仕事時々通い
野菊花に心いやされて
帰るとあみもの 家事 元気よ
姉・兄元気 時々電話きます

父ちゃんのおかげさま三人子供
恵まれて光ちゃんだけ他界
涙もかれぬうち父ちゃん他界
花に生き花にいやされ花と散る

   ロイヤルミルクティ            山本ルイ子

初めて飲んだとき 幸せの味がした
甘くて やさしくて ホッとする味

雪が一面 銀色に輝いていた
まぶしくて ずっと見ることができなくて
思わず目を閉じてしまった
それがあまりに心地よくて しばらくそうしていた

すると「キュッ キュッ」と遠くの方から聞こえてくる
音はどんどん大きくなって「ギュッ ギュッ ギュッ」
「おまたせ」と彼は言って 私の手に何かをのせた

それは 私の大好きなロイヤルミルクティだった

甘くて やさしく てホッとする味
いつもにも増して幸せの味がした

  待つ事                    伊藤一路

子供と居ると待つ事が多い
着替えが終わるのを待ったり
食事が終わるのを待ったり
何事もその気になるのを待ったり・・・
ただ待っているだけではないけれど
待つ事って大切な気がする
どうしても大人の都合で急かしたい
気持ちになるけれど
待っている時間は
無駄ではなく大切な気がする
じっくり待ってみよう これからも
いろんな事が出来るようになるまで
目を離さずじっくりと

大人の人間関係も
待つ事って大切なのかもしれないなぁ