詩誌「詩人散歩」(平成24年夏号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  わたしの席                     浪 宏友

どいてくれ
そこは わたしの席だ

わたしは今夜もこの席で
古びた酒を呑まねばならぬ

あの日の夕暮れ
  向かいの席にあの人がいた

やがて おずおず立ち上がったあの人は
出口に向かって歩きはじめた

ここで 待ってる
わたしの声が追いかけると ふわりと背中がうなずいた

かげろうのように夕闇に滲んだあの人は
必ず ここに もどってくる

昔の話じゃないかと あんたは笑うけれど
わたしには つい昨夜のことなのだ

わたしがここにいなければ
あの人は 行方知れずになってしまう

どいてくれ
わたしはそこにすわらねばならぬ

  ありがとう                 中原道代

うららかな日 河原を歩いた
私の中で お日様電池がまわりだす
子供が私の手を引いて
一気に土手を駆け上がる
公園の桜めざして駆けだした
木の下で早くおいでと手まねきしてる
見上げてと 子供が言った
言われるままに仰向けば
うす桃色の花達が
青空バックに咲き誇る
花の精に包まれた
私の心が晴れていく ーはれていくー
優しさが伝わった
あなたもやっぱり花の精

  荒れ野                    大場 惑

恋心 燃え上がり
押さえようもなく
燃え上がり
けれども
恋の相手は立ち去り

恋心 彷徨い
目当てもなく 彷徨い
いつしか
荒れ野を彷徨い

やがて 疲れ果て
恋心 疲れ果て
行くあてもなく
荒れ野に
立ち尽くす

  幸せになる力ー今悲しみを背負っている方々へー 織田信雄

今あなたの歩いている事実という尾根は
いつも
不幸せの左側と
幸せの右側からなっている
片側だけからなる 尾根なんてないように
裏側だけからなる 紙なんてないのです
どちら側を見るのも自由ではあるけれど

ご不幸にも亡くなられた
あなたのお父さん、お母さんは何を願っているでしょうか
あなたのご主人、奥さんは何を願っているでしょうか
あなたのお子さんは何を願っているでしょうか
「あなたは幸せになる力をもっている」
どうか そのことを思い出して欲しい

あなたは、昨晩ご飯を食べましたか
おかずを作りましたか
美味しい食事でしたか
それは 山の幸でしたか 海の幸でしたか
色んなことを考えながら、ご飯を炊き、おかずを作ったことでしょう
作る時 食べる時の 一挙手一投足を思い出してください
炊けたお米の色や匂い その立体感
かみしめた時の味を思い出してください
作ったおかずの色や匂い その立体感
かみしめた時の味を思い出してください
その時に湧き起こった感情を

不幸という言葉で切り捨てられるでしょうか
幸せになりたいがための行動である
事実を

あなたを残していった方は
あなたの日々に何を望んでいるのでしょうか

「あなたは幸せになる力をもっている」
そんなことを言う私をむごいと思うなら
なぐってください
私は 石つぶてでも受けるでしょう
喜んで悪にもなりましょう

人間には
悲しみとともに生きてゆける 力がある
苦しみとともに生きてゆける 力がある
不安とともに生きてゆける 力がある
それは幸せへとつづく ひとすじの確かな道
「あなたは幸せになる力をもっている」

広場にぼんやり佇んでいて
だれかに背中を押されたように気づく
疑いようもなく広がる青空や
足下にかしずく水仙や
雲雀を歌わしめる季節

そして気づく身の
紛れのない事実
ふつふつとたぎる生命力に
はっとする時がある

   あなたと                  山本恵子

里イモ ゴボオ アシタバ ご命日用
もち帰り 一年間ありがとう あなた
小さいけど きれいにできて 御宝前に
あなたの作ってくれた心をいただきます

一人で食事も涙流れていただきました
本当においしくて二人で食べたみたいよ
これから先 私も できるだけ
健康のため 喜んで 一歩一歩進み

皆さんに 笑顔で 人生 命あるかぎり
心に太陽を 早朝に歩み 生かされて
生きる喜びをあなたと心の中で生きる

   お母さん                 山本ルイ子

お母さんに教わったこと
ご飯食べるとき両手をちゃんと使うこと
女の子はきれいな言葉使いすること
誰かに良いことしてもらったら「ありがとう」って元気に言うこと
今日やらなきゃいけないことは今日のうちにやってしまうこと

そして今、私からお母さんに言いたいこと
もっと子供に甘えてほしい
やりたいことは「いつか…ね」ではなくて予定をたてましょ
もっと自分を大事にしよう
それからいつも、いつもありがとう
これからも長生きしてください

  求めるなら                  伊藤一路

「求めるなら与えよ」
いつもそう思ってきた
人にそう願う時は
その人に必要な事を考えた
人に与えられると
何を求めているのか考えた

この行き来する目に見えぬ気持ちの
やり取りは難しい
精一杯感じないと見つからない
見つかったつもりでも
正解かどうかは分からない
純粋な気持ちが
真っすぐに行き来するようになったら
すごい世界が生まれるかもしれない