影 浪 宏友 |
泣き喚いている私の耳に 遠いすすり泣きが 忍び込む
途切れ 途切れの すすり泣きは
私は声を呑み込んで
ものかげで うずくまっているのか
私は涙をぬぐいながら
近づけば 遠ざかる
遠い闇の底に
きみは だれ ?
どこに いるの ?
なぜ 泣いて いるの ?
私は しゃくりあげながら
くりかえし くりかえし たずねながら
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夏の日に思う 中原道代 |
ふくらんでいく白い雲 ふくらんでいく緑の山 子供らのはずむ声が聞こえる
おかっぱの私
コップ一杯の水を飲む
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喪服 丸山全友 |
新緑になり始めた山を眺めながら 雑草で一面緑になった棚田を トラクターで耕していく 回転する刃(土を耕すところ)に 雑草が小さく引きちぎられて 土と混じり合って黒くなって行く まだ冬眠している蛙が多く出てくる 運よく無傷なものもいれば 回転する刃に傷つき 手足がとれているもの 内臓が出ていて 全く動かないものもいる 蛙は冬眠しなければ生きられない 百姓は作物を金銭に換えなければならない 暖かくなるのを待っていたのは同じだ 全てを耕して改めて田を眺める 一面黒くなった田を 早くも山の端(は)にかかる陽(ひ)が なおも田を暗くしている 僕も影に黒くなっている
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犬と雷神 織田信雄 |
遠くに聞こえるかすかな雷鳴 すると犬が鳴き始める 光と音にしっぽを垂らして 虚空にとらえられた二つの目
やがて近づいてきた雷神は
小賢しい犬め!
まるで自分の咎を
土間でぶるぶる
絶え間のないケイレンを
しだいにケイレンもおさまって
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一周忌の思い出 山本恵子 |
あなたさりし早一周忌 長男夫婦三人で無事終り 長い年月苦労かけごめんね 一泊で帰り早夜はおつやとか
結婚した時私は子供同然
私を一人前の大人に育てて
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自由 山本ルイ子 |
わた毛がヒラヒラと空を舞った 風にゆられるがまま上へ上へと とても気持ちよさそうだ どこへ行く宛もなくフワフワと そんな自由で気ままに飛んでるのを見ていたら 私も空を飛んでみたくなった 時間も遮られない 誰の目も気にしない 流されるがまま 飛ばされるがまま
明日はどこへ行こうかな……
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創 伊藤一路 |
鏡のような海原に大粒の雹が落ちる 柔らかな薄い葉の上で痩せた蛙が獲物を待ち 目に見えぬ風が音をたて知らぬそぶりで通り過ぎる 空に稲妻とコウモリが騒ぎたて皆に知らせに来る 込み上げる感情もそれに翻弄される身体も その先が暗いとも明るいとも分からぬ洞窟のなかで ただただ全てを受け入れて呼吸となる 明日は一体何に包まれるのだろうか
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赤い目のうさぎ 大戸恭子 |
その人は貴方のお父さんでしょう その人は貴女のお母さんでしょう その人はあなたのお姉さんでしょう その人はあなたのお兄さんでしょう でも、他人から 「うさぎだよ。」って言われたら あなたもうさぎに見える様になって しまったのね。 どうして自分の曇りなき眼で 見なくなったのかしら? それはあなたがちゃんと涙を 流さなくて、瞳が汚れてしまったから…。 なら、あなたも涙を流さない 赤い目のうさぎ。
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河原 清水俊平 |
夕暮れに一人で歩く河原の野 人は何言うこの野原寂しさがある 夜になり星が見えるよ河原の野 星は思うかこの野原哀愁がある 朝になり旭日(きょくじつ)見える河原の野 日は何照らすこの野原悲槍感ある 昼(ひる)になり草木が元気河原の野 私は望むこの野原悲壮美がある
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月の光 清水俊平 |
月の光、明かりよりも明るく 夜の雲に色を付ける 月の光、ろうそくよりも明るく 川の面を黄金色にする 月の光、太陽の光より優しく 地上を照らす 月の光、星の光より強く 夜の景色を作る
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