詩誌「詩人散歩」(平成24年秋号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  影                          浪 宏友

泣き喚いている私の耳に
遠いすすり泣きが 忍び込む

途切れ 途切れの すすり泣きは
しきりに私を 呼んでいる

私は声を呑み込んで
すすり泣きに 耳を澄ました

ものかげで うずくまっているのか
闇のなかを さまよっているのか
途方に暮れて 立ち尽くしているのか

私は涙をぬぐいながら
すすり泣きを 捜しはじめた

近づけば 遠ざかる
また近づけば また遠ざかる

遠い闇の底に
かすかに
影が かすむ

きみは だれ ?

どこに いるの ?

なぜ 泣いて いるの ?

私は しゃくりあげながら
涙の沼に 足をとられながら
影に向かって もがきつづけた

くりかえし くりかえし たずねながら
影に向かって もがきつづけた

  夏の日に思う                中原道代

ふくらんでいく白い雲
ふくらんでいく緑の山
子供らのはずむ声が聞こえる

おかっぱの私
縁側でアイスキャンデー食べている
たんざくに願いを書いた七夕様
ちょうちんの明りで歩いた迎え盆
家族がひとつになった幸せな日
開放された夏休み
楽しみをいつもさがしてた頃
あの日々が私の宝

コップ一杯の水を飲む
さあ 始めよう
私の中の本当をさがしに 

  喪服                     丸山全友

新緑になり始めた山を眺めながら
雑草で一面緑になった棚田を
トラクターで耕していく
回転する刃(土を耕すところ)に
雑草が小さく引きちぎられて
土と混じり合って黒くなって行く
まだ冬眠している蛙が多く出てくる
運よく無傷なものもいれば
回転する刃に傷つき
手足がとれているもの
内臓が出ていて
全く動かないものもいる
蛙は冬眠しなければ生きられない
百姓は作物を金銭に換えなければならない
暖かくなるのを待っていたのは同じだ
全てを耕して改めて田を眺める
一面黒くなった田を
早くも山の端(は)にかかる陽(ひ)が
なおも田を暗くしている
僕も影に黒くなっている

  犬と雷神                   織田信雄

遠くに聞こえるかすかな雷鳴
すると犬が鳴き始める
光と音にしっぽを垂らして
虚空にとらえられた二つの目

やがて近づいてきた雷神は
雨風をガラス戸にたたきつけ
稲光で所在をみつけ出し
雷鳴で大喝する

小賢しい犬め!

まるで自分の咎を
責められているような気がするまるで生きていることを
責められているような気がする

土間でぶるぶる
二階でぶるぶる
この世のどこに
身をおけば良いのだろうか

絶え間のないケイレンを
抱っこしてやる
ぼくが引き受けてあげようね
お前のいわれなき咎を

しだいにケイレンもおさまって
腕のなかに
ぐったりしたものが居る
そんな素直さで生きてみるのは
どうだろう

   一周忌の思い出               山本恵子

あなたさりし早一周忌
長男夫婦三人で無事終り
長い年月苦労かけごめんね
一泊で帰り早夜はおつやとか

結婚した時私は子供同然
なにもできない嫁でした
学校卒一年生色々とあり
貴方のおかげさまで嫁子

私を一人前の大人に育てて
くれてありがとうこれから先
健康と笑顔で親らしく
仲良くあまえ生活の逆に   

   自由                   山本ルイ子

わた毛がヒラヒラと空を舞った
風にゆられるがまま上へ上へと
とても気持ちよさそうだ
どこへ行く宛もなくフワフワと
そんな自由で気ままに飛んでるのを見ていたら
私も空を飛んでみたくなった
時間も遮られない 誰の目も気にしない
流されるがまま 飛ばされるがまま

明日はどこへ行こうかな……
吹かれるがまま 流されるがまま 飛んでくよって
言ってる気がするなぁ

  創                      伊藤一路

鏡のような海原に大粒の雹が落ちる
柔らかな薄い葉の上で痩せた蛙が獲物を待ち
目に見えぬ風が音をたて知らぬそぶりで通り過ぎる
空に稲妻とコウモリが騒ぎたて皆に知らせに来る
込み上げる感情もそれに翻弄される身体も
その先が暗いとも明るいとも分からぬ洞窟のなかで
ただただ全てを受け入れて呼吸となる
明日は一体何に包まれるのだろうか

  赤い目のうさぎ                大戸恭子

その人は貴方のお父さんでしょう
その人は貴女のお母さんでしょう
その人はあなたのお姉さんでしょう
その人はあなたのお兄さんでしょう
でも、他人から
「うさぎだよ。」って言われたら
あなたもうさぎに見える様になって
しまったのね。
どうして自分の曇りなき眼で
見なくなったのかしら?
それはあなたがちゃんと涙を
流さなくて、瞳が汚れてしまったから…。
なら、あなたも涙を流さない
赤い目のうさぎ。

  河原                     清水俊平

夕暮れに一人で歩く河原の野
人は何言うこの野原寂しさがある
夜になり星が見えるよ河原の野
星は思うかこの野原哀愁がある
朝になり旭日(きょくじつ)見える河原の野
日は何照らすこの野原悲槍感ある
昼(ひる)になり草木が元気河原の野
私は望むこの野原悲壮美がある

  月の光                    清水俊平

月の光、明かりよりも明るく
夜の雲に色を付ける
月の光、ろうそくよりも明るく
川の面を黄金色にする
月の光、太陽の光より優しく
地上を照らす
月の光、星の光より強く
夜の景色を作る