詩誌「詩人散歩」(平成13年秋号)
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  無限の光―友人の死を悼んで―       浪 宏友
これほどまでに 辛いのに
人は 何故 生き抜こうとするのか

これほどまでに 裏切られても
人は 何故 愛しつづけようとするのか

これほどまでに 挫折を繰り返しても
人は 何故 立ち上がろうとするのか

死の恐怖を前にしてたじろぐからか

人を失う悲しみに耐えきれないためか

独り取り残される寂しさに追い立てられてのことか

生きることへの疑問の裏側から
生きるという真実が突き上げてくるから

砕け散った愛の破片のひとつひとつから
信じる心が芽生えなおしてくるから

疲れ果て傷だらけとなった身と心を
あたたかく包んでくれる光が訪れるから

人は 生き

人は 愛し

人は また立ち上がる

やがて静かに瞑目するとき
人は自ら真実となり愛となり
無限の光へ溶け込んでゆく

  中年夫婦                 山本恵子
雨にうたれて旅路を行けば
川の流れを横にみて
橋を渡れば信号だ

手に手をとりて車に注意
やがて信号青になる
いいですね はい 行きましょう
チェックインは四時という
それまで時間費やせば
雨も上がって傘の杖

  恋の旅路                山本恵子
桜の花びらかぜに舞い
旅人迎えてありがとう
心安らぐ木々をみて
花びら片手に行く旅路

春のぬくもり半袖姿
行き交う人のその笑顔
もっと咲いていたかろに
桜には可哀相だよこの風は

花の散った軸のピンク色
なんともいえぬあどけなさ
中年夫婦心にロマン
ほのぼのとした恋心

  桜の頃とあなたと私            小田嶋紀江
あなたの逝きし桜の頃、またやってきました。九年の時が流れました。
あれから私は何かがかわったようですが、心の中は何もかも変わっていない気がしています。いたづらに“時”だけが流れ、肉体も心もおとろえていますが、私はあの時のまま止まっているようです。
夢も希望も失くしたようでいて、かえってそれに向かって歩いているようです。
あなたが追い求めていたように。
走って、歩いて、走って、歩いて、一からの出発点。生きていくことに疑問を感じてもあなたの詩(うた)が私の心をほどいてピュアにしてくれ ます。
あたり前の事があたり前のように過ぎていく、でもそれはとてもキセキに近いこと。
大事にしてゆきたい。
あなたが桜の樹の下で微笑んで手を振っていらっしゃるのが今、私には見えます。

  電話                  小田嶋紀江
あなたの声が聞きたい夜
何でもいい、たわいのない話しでいい
ずっと、ずっとあなたと話していたい
明日の仕事も忘れ、とりあえず“今”を大切にしたい。
こんなに無防備でいいのかと思うほど心を裸にして、砂時計の落ちるのを見ている。又、ひっくり返して一からスタート。
あなたの声が胸に響く。耳から躰の中へしっとり入っていくここちよさ。
切るのが恐いくらい。
切ったら又すぐかけたくなる。
そして、又そのYOINにひたる。
いつまでもずっとあなたと話していたい。
明日、会えなくても、あなたの声を耳にやきつけて、ずっと前に進んでゆきたい。
心の中でうずくこのとまどいにも似たこの気持ちをひとは「こひ」というのだろうか。
永すぎた時間はフリーズされているだろうか。