残り香 浪 宏友 |
きみが旅立っていくのを ぼくは遠くから見ていた
人々と語り合うきみの笑顔が眩しくて
もう 会えないね
きみの顔が
きみの姿が小さくなり
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珍客 中原道代 |
小春日和の午後 大かまきり発見 ベランダのはしごをゆっくり降りて来た 私を感じて静止する 冬支度の手を休め 三角顔とにらめっこ 長い足にえんび服 「かっこ いい!」 絵本の中の王子様 しばらく私を楽しませ はしごを伝って姿を消した おしゃべり好きなヒヨドリ達も 南の方へ旅立った あたりは濃い秋に染まっていく さみしくなったベランダに 次のお客は誰だろう
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春の兆し 丸山全友 |
妻の押す車椅子で退院をする 膝の軟骨がすり減っている妻は 時々立ち止まっては膝をさする 「無理をするな」 自分で車輪を回して 自動車まで行こうとすると 「心配いらんわ」 妻はなおも早足で押し始める 立春は過ぎていても 駐車場は春とは名のみの風の冷たさ また病名が一つ増えて もう春は来ることないのかと嘆く夫 春は来ていやないのと笑う妻 流れる雲に 車椅子に乗る夫と 足を引きずりながら押す 妻との影が一つに重なる
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人と言葉 織田信雄 |
原っぱに言葉が蠢いている 一本足のその怪物には 気をつけなくてはいけない
近くを通る時
その怪物は人が造ったものなのに
いっしょに平和に暮らすことのできる
名のない平和が
名目の言葉が一人歩きして
みんな枝葉末節へむかう
そして平和と名づけられた言葉のために
私たちは言葉を使う
今の世界は言葉でつくられているから
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畠 山本恵子 |
寒さ厳しく 冷と風強く 買物車手で引き通る大道に 椿の花が首を出しピンク色して 心いやされ主人の顔を思い浮べ
涙流れて西風に後押されて
木の葉も草もかれはてて
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ふと思うこと 山本ルイ子 |
素直になれない たまに自分って小さい人間だと思うことがある なにげなくドライヤーで髪を乾かしていたらそんなことを思ってしまった もっと自分にゆとりが持てたらイライラすることも減るのではないかとおもう 日々追われながら生活しているとなかなかゆとりがもてない 人にも当たってしまう 勿論、自分にも 人間とは本来、小動物なのだろうか?
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また一年 山本ルイ子 |
大好きな秋 なのに、寒さが弱くなってきた 大好きな秋 なのに、食欲は増しても体重は減らない
空は青く、いわし雲・うろこ雲が気持ちよさそうに流れている
これから秋が来るたびに「大好きな秋…なのに」と
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船 伊藤一路 |
僕が乗って来たとても大きく立派な船は どんな悪天候にも屈する事無く目的地を目指してただひたすらに邁進してきた その船は今まで沢山の素晴らしい物を運んで来た もう随分長く旅をして来たせいかあちこち傷んでいるが 一番大切な部分は健在だ その部分がある限りその船は大きく存在する 今は港で皆を見ている 次の目的地が決まるまで
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家族 大戸恭子 |
きっと、その色は黒 静かで、穏やかで、冷静な聖域 家族がその色をいつも見ている 迷う時は何もない様なその聖域に 静かに心をとばすのさ。 他人には見えない静かな世界 しっかりとした法則が響いている 法律でも、道徳でも、理性でも、良心でも、 自分が裁けない時は、 その聖域に、静かに心をとばしている
そして、さっぱりとして、また、生きている
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