詩誌「詩人散歩」(平成25年春号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  光                          浪 宏友

あてもない旅路
歩き疲れて
冷たい夜道で立ち止まったら
小さいけれど まばゆい光が
目の前を横切って 消えました

私は
見て
見送って
しばらく
光が消えたあたりを
見つめ続けていたのです

それからしばしば私の中を
まばゆい光が 横切ります

横切る光を 私の奥に
見て 見送って
見て 見送って

夜道に凍えているけれど
私の中で流れては消える小さな光が
ほんのり温めてくれるから
もう少し歩き続けます

  葉ぼたん                  中原道代

カーテンを開けると真っ白な世界
雪の彫刻になっている
体中が凍ってしまいそう
冬将軍に負けてる私
「しっかりしろよ!」
先生の大きな声がしたようだ
両手にぐっと力を入れた
軒下で葉ぼたんが鮮やかに咲いている
中学校の午後の教室
だるまストーブが燃えていた
眠気をこらえた五時間目
急に先生「俺の子供の頃はなあ」
みんな待ってましたと椅子を引く
面白かった昔ばなし
きびしくて あたたかくて
おぼろげで せつない記憶
エールを送ってくれた先生の
賀状はもう届かない

葉ぼたんに朝日が当たってきた
花のまわりが一層華やいでいる

  土のいたずら                   丸山全友

窓ガラスにかまきりは今朝もいた
昨夜から全く動いてはいない
立冬を過ぎてから
見るのも初めてなら
いつも目にしているのよりも大きい
小春日の当たる庭に放そうと
窓ガラスに近づくと
土のついた手で触れた跡だった

  努力即幸福                  織田信雄

急いでいる時の信号は長く
ゆったりしている時の信号は短い
同じ他人が大きかったり 小さかったり
そんな風に思えることってありませんか
その時の体調や気分で
同じ風景が華やいで見えたり 沈んで見えたり
『失われた二十年』と言葉は言うけれど
はたして私たちは
何を失ったのだろう
現に生きているのだから
幸せの程度は同じはずなのに

高度成長が永遠につづくだろうか
もっと悲惨な状態に追い込まれた時
私たちは きっと気づくだろう
あの時代を
どう生きれば良かったのだろう

火もまた涼し
そう言って
身を投じた僧が居たよね
それは極端な例だけど

グルメに溺れるよりも
すこし辛抱するだけで
麦飯にいわしの干物が
どんなにありがたいことか

ダイエットに励むよりも
困っている人のために
すこし汗を流すほうが
どんなに健康になれることか

環境を変えるよりも
私たち自身を変えるほうが
どんなに 幸せなことか
どんなに エコであることか

自由の意志で辛抱できるのは
人間だけの能力なのだから

そうやっていれば私たちは気づく
素晴らしい生命を生きているんだって
気分に翻弄されるのは
もうやめよう

   あなた                   山本恵子

寒いながら歩く畠道
足も痛みなき一歩
   畠仕事をたのしみに
四十五分片道散歩恵あり

二時間くらい仕事して
あせ流れて家路に歩き
シャアあびして朝食一人
今日も元気で帰ったよ

あなたが留守番ありがとう
感謝しながらアシタバもって
夕食ゴマあえ作りました
一緒に食べて仏前にあげる

   一本の道                 山本ルイ子

あなたには大切な人はいますか
あなたには守りたい人はいますか
あなたには失いたくない人はいますか
大切な人を失ったときあなたはどうしますか
私は大切な人を失いました

先が見えません 今も見えません

車中で流れる景色を見ていると
姪が人差し指を立てながら言いました
「お母さんは 世界にたった一人」

雲のようにふわふわ浮いてた気持ちが
飛行機雲が一本の道を描いてくれた
かのようだった

  私はただ その道をまっすぐ
歩いて行けばいいのだ

  顔                      伊藤一路

『最近頑張っている事は何ですか?』
今聞かれると一番困る質問だ。
『頑張る』とはある目的の為に
精神的、肉体的に辛い事であるにも関わらず
やり抜く事だと思っている。
趣味は頑張る物ではない。
真面目に楽しむ物。
頑張っている人はいい顔をしている。
今の自分はとても情けない顔をしている事に気付いた。
非常にかっこわるい。
親父としていい顔でなくてはならない。
たるんでる場合ではない。
いい顔になれ!

  無題                     大戸恭子

志は高く造れ 子は高(貴)く作れ
史は貴く創れ 師は近くつくれ
死は清くつくれ 紙は木から作れ
  尊き愛によせてあなたの夢のために。

  近くは見えない                清水俊平

近くは見えない
遠くよりも見えない
本当の宝は
遠くの理想郷(ユートピア)ではなく近くにあったりする
近くは見えない
遠くよりも見えない
本当の善は
遠くの国ではなく
近くにあったりする
近くは見えない

〔俳句〕
雨の後 長い夜には 音もなし

〔短歌〕
楽しさや 新しい詩が思い付く
そしてその詩が うたを奏でる