詩誌「詩人散歩」(平成25年夏号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  鈴の音                        浪 宏友

闇にまぎれたうしろ影
小さな鈴の音がコロコロと

縁日の夜
拝殿の鈴を鳴らして
二礼二拍一礼
すぐあとに
同じように鈴を鳴らして
二礼二拍一礼をした女

おみくじを引こうと社務所に寄ったら
おみくじの筒を振っていたあの女
少し離れたところで待っていたら
おみくじをいただいて振り返り
目と目が合って 小さく会釈した

脇の小さな祠に足を向けたら
そこでも出会った あの女

おずおずと話しかけ
小さな返事が聞こえ
やがて
賑わしい夜店の通りを並んで歩いていた

ふと 立ち止まり
小さな鈴を買って 黙って渡した

名も聞かず
おしゃべりもせず
鳥居を出て おやすみなさい と

闇にまぎれたうしろ影
小さな鈴の音がコロコロと

  春                     中原道代

河原で大きく深呼吸
風を 感じて
空気を 感じて
匂いを 感じて
ああ 信濃の春
柔らかな草原に
可愛い花たちが生まれている
土手の向こうは満開の桜並木
ライトを点滅させて
介護センターの車一台 また 一台
ゆっくり ゆっくり 通って行く
川風が草をゆらし 桜をゆらす
やさしい風が みんなを包む
残雪の山 豊かな水
私の瞼が 思い出の一枚を写し撮った

  ぼくだけの海                   丸山全友

海が見たくなる

空を見る

太陽は灯台だ

空飛ぶ小鳥は小舟だ

ぼくのいる病院は豪華客船だ

   名物西風                  山本恵子

寒い冬西風強く
島の名物島育ち
風に背を押されし
通う飛行場路美しい

木々も音してさわさわと
私の耳にきこえてくる
進む畠の野菜とり
大根 あしたば 夕食に

今晩メニュ仏前に
あなた畠の野菜
あいしいよ寒さも感じず
たのしき我家の夕食の味

   大好きな街                山本ルイ子

電車を降りると大きなビルはなく田んぼや畑が広がっている
都心に比べたら何もないところだが、空気ははるかに澄んでいる
いつもここに帰って来ると癒される
空気や景色、そして人に
十八歳の頃、都会に行きたくて田舎を出てきた
住んでみると何でもそろっていて行きたいところたくさんあって、毎日が楽しくて仕方ない
もっと自分にやれることがあるって頑張ってしまう場所だ
けれど、たまに疲れてしまう
空気や景色、そして人に

だから大好きな街に帰りたくなる
空気や景色、そして人に癒されたくてそしてリセットされたらまた都心に帰る

これが私のライフスタイルなのだ

  千手観音                   大戸恭子

あの人の望み、この人の望み、
叶えてあげたい。
必要な時、必要なだけ
与えてあげたい
何が望みですか?
何が必要ですか?
でも、私には2本しか手がない。
だから今は、
そっとあわせて
貴方の事を思わせて
下さい。