詩誌「詩人散歩」(平成25年秋号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  何処へ                        浪 宏友

空をゆく舟に私が居る
地上の私が舟を見送る

何処から 何処へ
此処から 此処へ

舟の私は沈黙している
地上の私は声を失っている

何処から 何処へ
此処から 此処へ

舟は空の青に紛れ
地上は静けさに押し潰され
私は 居なくなる

時の果て

壊れて散らばる舟の残骸
不安な足取りで立ち上がる私

何処から 何処へ
此処から 此処へ

  夏の朝                   中原道代

涼しい風が吹いている
私 お水を一杯頂いて
朝顔さんにも水分補給
どこかでかっこう鳴いている
ゆっくり顔を上げてみる
高い空に雲さんふたつ
風にまかせて形を変えて
だんだん ひとつになっていく
開け放たれた窓
聞こえてくる幼な子の声
覚えたての「ママ」を繰り返す
私の頬が思わず緩む
自転車を引き出す音
エンジンのかかる音
暑い一日が動き出した
雲さんの影も形もなくなって
青空がどこまでも広がっていた

  きせる                      丸山全友

たばこを吸い終わる
軽くきせるを吐く
残っていた煙が
いくつも輪になって出てくる
「お前も味を覚えたか」
暗い小さな部屋で寝ころんで
いつもきせるを使っていた
祖父が輪の中で笑っている

   家路                    山本恵子

朝六時 畠に歩く片道
一時間 水 肥料 虫薬
まとめ買物 ショッピングカー
右手 左手 とりかえ歩く

主人の記念の紫カッパ
身にまとい 心はいつも二人歩き
畠につきし 草取り肥料
虫の薬まき 時計見る

ヘビが怖くて眠っている時
あせを流して仕事終了
時計取りて早帰る
一時間 又歩いて家路進む

   三回忌                   山本恵子

主人も 早 三回忌
我身も年取る年齢と
車があってものれない私

自転車もあるけど車多く
運動のため歩く毎日
友と通う道場の楽しさ

ボランテアも月一通う
年齢は年でも若いと思う
自分でほめて通う一日

   誰かのために               山本ルイ子

玄関開けると空はどんより曇っていた
雨も降っていた
そんな時は少し憂うつな気分になる

トコトコ駅まで向かっていると
てるてる坊主が立っていた
白いレインコート、手には黄色い旗
子供たちの安全を守っている人
心の中で「雨の中、ごくろうさま」とつぶやく
駅までの道のりはまだ半分
じめじめして蒸している

すると、またてるてる坊主が立っていた
白いレインコート、手には赤い棒
工事現場の前で通行人や車を安全に
誘導する人
「雨の中、ごくろうさま」と心の中でつぶやく
駅に向かうサラリーマンやOLたち
今日も誰かのために働くのだろう

いつも、ごくろうさま!

  「父へ」                   伊藤一路

「友達を大切にしろ」
「おふくろを泣かせるな」
「時間を守れ」
「漢字覚える暇あったら友達増やせ」
「いつも下っ腹には力を入れてろ」
まだまだ沢山ありました
優しい親父でした
叱られたのはおふくろを泣かせた時だけでした
あなにとって僕はどんな息子だったのでしょうか
いい息子だったのでしょうか
酒も飲まない寡黙な人でしたから
そんな事話す機会もなかったですね
ただ言葉は少なかったけれども
器用な生き方には見えなかったけれど
沢山の人に感謝されてきた親父の生き方を尊敬しています
いつかそんな話しを二人で沢山したいですね
男同士で

本当にありがとう

ありがとう

  方円                     大戸恭子

方円な関係は、法縁な関係
方が円を囲んだり、円が方を囲んだり
寒暖や、外敵から、守り合う、大切な関係。

  ご飯                     大戸恭子

主人が注いでくれたご飯。
今日は、何となく私の方が少なめ。
男としての主張なのか、私への配慮なのか。
でも、何となく嬉しい。     

  何処へ                    大戸恭子

貴方が一番高く翔びたかった場所。
白い雲と、自由な鳥たち。
自由って何?
しばられる事があるせいで出来た言葉?
幸せって何?
心地良い気分? きっとそれだけだね。