詩誌「詩人散歩」(平成25年冬号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  昼間の月へ                      浪 宏友

迷子になっちまったのかい お月さん
真っ青な空に 白く ポツンと
消しゴムで消されそうに佇んでいる

置いてけぼりを喰っちまったのかい お月さん
ほんとは誰かにみとれていて
歩くのを忘れちまったんじゃないだろうね

大事なものを落としちゃったのかい お月さん
探しに戻ったけれど見つからないうちに
ひとりはぐれちまったのかい

ふと気づいたら誰もいない
どっちに歩けばいいのかも分からなくなって
心細げに立ち止まってしまった

明るすぎる昼間は
やっぱりあんたには似合わない

小さな星たちの瞬きの中で
明るい笑顔で輝きながら
暗い夜道を照らしてくれる
それがやっぱり あんたらしいよ お月さん

  吾亦紅                   中原道代

秋風にさそわれて
田舎道を歩いた
赤い りんご
赤い ざくろ
赤い もみじ
赤い けいとう
赤色を 沢山 見つけた
私の好きな われもこうは
山の風に 揺れているだろう
「吾も紅」と 昔 友が教えてくれた
すっかり秋色の景色の中
コスモスの道をどんどん歩いて行く
垣根越しに植木屋さんが冬支度
今 目の前を 赤トンボが横切った

  足音                       丸山全友

五歳の娘は
私や妻のはきものをはいては
大きな足音をさせている

足音が聞こえている間は
私も妻も安心している

突然聞こえなくなると
妻と先を争って飛び出して行く

   節分行事                  山本恵子

節分の笑顔友と遊び
今日一日も昼食も
集まり数も八人かな
笑う門に福の神

今度又多くきてくれる
手取り歩く仲間話
年もあるけど足もね
痛む友も元気で語る

心がうきうきすると
痛さもゆるやかになるし
時が流れる笑顔良し
又逢う日まで元気でね

   十年間そして十年後            山本ルイ子

早いものでPEPができて十年が経ちます
子どもに譬えると小学四年生
物事もしっかり考えられる年頃だ

はたして私はどうだろう
もう三十歳を越えている
立派な大人になったということだ

怖いくらい年齢と人間性は比例しない

どう生きてきたかはもう変えられない
けれど どう生きて行くかは変えられる

十年後
立派になったと母に言われる
人になりたいと思う

[PEP(ぺップ)は作者が勤める東京池袋にある美容室]

  言葉                     伊藤一路

言葉は何の為にありますか
人を喜ばせる為ですか人を傷つける為ですか
言葉が無ければ何も伝わりませんか
赤ちゃんは言葉がありませんが伝わります
こちらが分かろうとするからです
分かり合える距離にいるからです
分かってもらおうと必死だからです
大人同士だと言葉だけに頼りすぎて
大人同士だと言葉だけに囚われすぎて
本当の事が伝わらない
相手を分かろうとするだけで言葉なんかいらなくなる
心地よいコミュニケーションが
この世から無くなる前に
この事を伝えたい
必要最低限の言葉だけで

  四季のつぶやき                大戸恭子

見た目には爬虫類を思わせて
食してみれば珍味なゴーヤ

涙して貴方の胸で泣く夢は
十五の春のあぜ道に置く

街行けば風が冷たく空見上げ
ホームの向こう鰯曇

秋花(コスモス)の上に乗ってるみつばちの
命短く色彩かに

ありがとうその一言も言えなくて
あの人はもう空気になった

さようならその一言もかわせずに
本当の別れもうさようなら

  おかさん おとさん             中野典子

おかさん あなたにあいたい
おとさん あなたの姿が目に浮かぶ
目をとじればあえるね おとさんは
おかさんは とおくへいっちゃった

  ねこ                    中野典子

あなたの目は真実
いつも私を信じ愛し慕ってくれている
今日も私をジッとみつめる
死ぬまで一緒にいるよと約束をした
ありがとう愛しき小さな生きものよ

  昔の恋                   大場 惑

遠い昔 恋をした
あの人の姿を見ると
胸が鳴った
あの人の近くでは
声が出なかった
あの人が居るだけで
幸せだった
けれど
物悲しかった

あの人は 居なくなった
何処に行ったのかは
分かっていた
訪ねていくことは
出来なかった

にじみのように
遠い日が
こころの隅に