詩誌「詩人散歩」(平成26年春号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  苦悩の日々に                     浪 宏友

忘れていた恋が
突然 通り過ぎる
懐かしむ間もなく
苦さだけを残して

過ぎ去った日々が
四方八方から溢れ出て
堤を破った洪水のように
今を覆い尽くしていく

振り返れば
見た夢はすでに霧散し

目を上げれば
真っ白な闇に閉ざされ

破れポケットに手を入れれば
失くしたはずのあの日の欠片が引っ掛かっている

忘れていた恋を
もう一度 忘れ直して

失くしたあの日を
もう一度 失くし直して

なにもかも閉ざす真っ白な闇に
おずおずと
足を踏み入れなければならない

  陽光                    中原道代

静かな日曜日
ストーブが激しく燃えている
障子を通す陽光が
近づく春を教えてる
鉢植えのつる草は
大葉を 一枚 一枚 落としては
新芽をすくすく育ててる
高く伸びた はからめの
蕾も大きく膨らんだ

私の前に道はまだ続いている
堅い衣を解き放し
歩 歩 ゆるゆると進みたい

大きな手が私の背中をポンと叩く
背筋を伸ばし
大寒の中へ 一歩 踏み出して行く

  松                        丸山全友

年末年始の出費に備えて農協のATMに寄る
産直で正月用の花を売っている
大菊や小菊などと松の入った束は
松のない束よりも五百円ほど高い
買うつもりはなかったが
妻の喜ぶ顔が浮かんだ
松も妻は買ってはいるが
庭から続く山裾辺りに
正月用の松ぐらいはあるだろうと
仏壇用と墓などの分だけの
大菊や小菊などの束だけのを買った
帰ってから家の裏から続く山を
改めて見渡すと松がない
松くい虫で枯れてからは
雑木と竹ばかりになっている
高校生の時に足を悪くした僕は
自動車には乗れて
テレビやパソコンで世界のことは分っても
庭同様の山は
父について松を取りに行った時のままだ

   春の花                   山本恵子

色形さまざま類の花
散るも早い花もあり
長もち色美しい花香る
主人の記念のチウリープ花
終りをつげて さって行く
暑さの強い花咲きて
庭に顔出し時わすれ語る
四季の香りと美しさ
見とれて早昼食となり
あるもの食べて花と笑う

    時のたつのもきにせずに
一人語時計みつめて立ち
墓地に行く時間と身を
整理線香持ちて墓へ行く

   お月さま                 山本ルイ子

子どもの頃 思っていた事がある
お月さまはどうしてついてくるのだろうって
いつもの帰り道 空を見上げた
星が出ていると明日は晴れる
星が出てないと明日は雨かなって
お月さまは出てないかなって
今日は満月だった

  空はとってもきれいだった
家につくまでずっとついてきてくれた
おかげで私の足元は明るかった

  お月さま また会おうね

  友                      伊藤一路

三十年振りの友達と会う
田舎を離れ東京で暮らし始めてもう二十七年も経っていた
東京で会う友達は心の支えになっていた
皆が頑張っているのを知っていたから支えになった
故郷が同じと言う事だけではなく共有するものを感じた
素にもなれる
見栄もはれる
弱気なところも見せられる
褒めてみたりからかったり
ありのままでいられる
友よ
ありがとう
これからもよろしく

  涅槃会                    大戸恭子

釈迦が横たわっている
そして、最後の言葉
弟子達の悲しみの声……。

   ところが、弟子達の胸に何か
あたたかいものが、ふっとわいた。
  皆んな、お互いの胸のあたりを見た。
そう、いつか釈迦が
言っていた事が起こる。
「常住居説法」
皆んな釈迦が久遠仏となって
自分達の胸に飛び込んで
来たのを知った。

   もう、誰も迷わない。

  冬の木は思う                 清水俊平

冬の木は春を思う。
春は美しい、あのこの花のように。
そして、冷風の中に見る、青い空。