詩誌「詩人散歩」(平成26年冬号)

yuyake
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  縁側から                       浪 宏友

おじいさんは
縁側から ふいに
  静かに 立ち上がって
ぼくたちを見やりながら
奥の部屋に歩いて行きました

  ぼくたちの話を聞いているのかいないのか
  いつも そばで
  静かに手を動かしているおじいさんでした

  ぼくが いらいらしていたとき
  振り返ると 優しい笑顔があって
  心のとげが消えていくのが分かりました

  ぼくが 口惜しい思いで押し黙っていたとき
  見上げると 心配そうな顔があって
  心がほどけていくのが分かりました

  ぼくが 自慢話をしていたとき
  かたわらで 静かにうなずきながら
  幸せにしてくれるのが分かりました

おじいさんが
縁側から
奥の部屋に入ったとき
少し明るさが違っていたのか
姿が見えなくなりました

でも
もうすぐ
お茶かなんかを手に持って
縁側に 戻ってきてくれますよね

  秋の恵み                  中原道代

公園のやまぼうしの木の下で
両手いっぱい赤い実拾った
川原で袋いっぱいくるみを拾い
やぶに入って菊芋を掘る
うれしい秋の収穫だ
帰り道 ミントの香りを楽しんだ

「ただいまー」「お腹すいたー」
にぎやかな子供の声
炊事係は忙しい
やまぼうしの赤いジャム
川ぐるみのおはぎ
菊芋の天ぷら
草木の恵みに感謝して
みんなで舌つづみをうつ夕べ
あかしやの白い花が咲く頃に
花の天ぷら作ろうね

静かになった部屋
ふーと力が抜けていく

   父と娘                   大戸恭子

父親は娘に理想の女性の
スパイスをかけた。
娘のDNAには、父親の様な
男性には、だまされないぞという
ガードがされる。
でも結局、
恋愛のシュミレーションは
スパイスをかけられた
DNAからしか、できなくて、
父親に似た男性を選んでしまうのだ。

   寂しくなる季節              山本ルイ子

寒くなると何故か寂しく思う
陽も短くなり一日が早いような

公園を眺めていると、歩く人、誰かを待っている人、みんな寂しそうに見える
それはただ、私が寂しい気持ちで見ているせいなのかもしれない

そんな寂しい季節だからこそ幸せを感じる瞬間もある
暖房の暖かさ、お布団の暖かさ、お鍋の温かさ、そして人の温かさ
寒い季節だからこそ、暖かいものにとても幸せを感じる
まるで台風一過の空のように清く澄んだ気持ちになれる瞬間かもしれない

だから寒い季節も嫌じゃないかな

  良い子                    伊藤一路

良い子ってどんな子?
元気で明るくて優しい子?
お片づけができて約束を守る子?
親や先生の言う事を良く聞く子?

本当の良い子って言うのは子供らしい子だと思う
わがままも言うし
遊びに夢中になると約束も忘れちゃうし
次々と好奇心が湧き出て遊んでたものも
出しっぱなしになるし
思い通りにならないと良く泣くし良く怒る

子供はそれでいい
沢山笑って泣いて叱られて
全てが経験で肥やしになって根っこになるんだ
息子よ
インチキな良い子になるなよ

  思い込み                  丸山全友

妻と稲刈りをする
疲れたので
機械を止めて腰を伸ばす
わが家がすぐ前にある
二階の娘の部屋の窓に
てるてる坊主がつられている
「運動会はいつだった…」
「運動会は春になったでしょ。あれは遠足があるからよ」

  上野動物園                 中野典子

両親と出かけたたった一つの遠い思い出
父が私の左手 母が右手を握って
歩きながら 両親は高く手を上げる
三歳の私は 一時 宙を舞う
たのしくて うれしくて もっともっとと
せがむ私
母は腰が悪くて十回位しかできない
分かってる 無理は言わない
最初で最後のセピア色の思い出
今度は上野動物園へ行こうねと私
約束は叶わなかった
もう一度だけ逢うことが出来たら
両親の大好きな旅行へ車で連れていってあげたい
おとうさん おかあさん ありがとう 命を