詩誌「詩人散歩」(平成27年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  あの人                        浪 宏友

毎日 この時刻 この道を
あの人が 通る

私は 道端の立木になって
遠くにあの人をみつけ
近づく姿を 通り過ぎる足音を 遠ざかる影を
息をひそめて 追いかける

昨日も おとといも その前の日も
ずっと ずっと 以前から
私は あの人の通る道端の 立ち木になっている

あの人は
立木なんかには目もくれず
いつも 真っ直ぐに
立ち止まることなく歩いて行く

その日
あの人は 通らなかった
空は 晴れていたのに
風は 穏やかだったのに
太陽は 温かかったのに
あの人は 通らなかった

幾日かたって
あの人が 歩いてきた
同じ道を 歩いてきた
歩みがゆっくりしている
立ち止まり
こちらを見て
小さくため息をついて
また 歩き始めた

あの人は 行った
遠くに 姿が 消えた

それっきり
あの人を見なくなった

  栗                     中原道代

静かに 雨が降っている
リビングのテーブルで
私はひとり栗の皮をむいている
今朝はやく 届いた栗
嬉しい 嬉しい 贈り物
いがからむけたばかりの大きな栗
両手いっぱいの栗達が光っている
また おせちの季節だね
美味しい栗きんとんができそう
なんて ひとりごと 言いながら
ひとつ ひとつ ていねいにむいていく
家族がみんな集まる日
食卓囲んでにぎやかに
栗きんとんほうばる顔と顔
渋皮をむく手に力を込める
雨足が強くなってきた
秋がまた深くなっていく

鍋の中で甘露煮が煮詰まってきた

   気づいてしまった             山本ルイ子

気づいてしまった、彼とは合わないことに

異国の場所で彼に出会った
互いに引かれ合い、遠距離恋愛が始まった
会いたくても会えない、ただ声を聞くだけの日々だった
寂しかった

彼が東京に出てくる事になった
毎日が楽しかった
会いたいとき近くにいる
そう思うだけで幸せだった
だが、長くは続かなかった
すれ違いが多くなった
会いたいのに会えない

すると彼が「一緒に住もう」と言った
嬉しかった
毎日が楽しかった

なのにどうして?
いつも会えるのに、心の中でもやもやが消えない

気づいてしまった
近くにいても、いつでも会えても、幸せが続かない理由を
それは、彼とは何かが合わないのだと言うことに

  シンプル                   伊藤一路

もっと自分の気持ちや考えに
素直でいいんじゃない?
大人になると色んな鎧を身に着け
守りカッコつけたがる
何から身を守ろうとしてるんだい?
何を恐れてるんだい?
何をカッコつけてるんだい?
見栄張っちゃってさ
そんなだから色んな事が複雑になっちゃう
そして自分の事なのに
本当の気持ちすら分からなくなっちゃう
もっと色んな物捨てて
自由人でいいんじゃない
もっと全てがシンプルでいいんだよ
子供みたいに