詩誌「詩人散歩」(平成28年春号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  行方不明                       浪 宏友

真っ白な闇に
私は溶けている

どこに私がいるのか
どこから どこまでが 私なのか

そもそも 私が 本当にいるのか

真っ白な闇に
あの人の声がする

すぐそばで
とおいところで
こちらから
あちらから
真っ白な闇のあらゆる方向から
あの人の声が聞こえてくる

あの人の声がこもり
あの人の声が響き
あの人の声がつまずき
あの人の声が透きとおり

過ぎし日というものがあるのなら
私は あの人の声に聞き入らねばならない
来たる日というものがあるのなら
私は あの人の声にこたえねばならない

白い闇の中で
さまようことさえできなくなった私の中を
あの人の声が行き交い
私は
行方不明になった

  川辺を歩けば                中原道代

ガガガガー
シャベルカーが川岸でうなりを上げる
大勢のカルガモが一斉に飛び立つ
思わず足を止めた
大きなシャベルが土砂をすくい
石をすくって川に投げ込む
中洲になった流木も軽々丘に持ち上げた
若者のみごとな手さばき
川幅が広がっていく
シャベルの音が遠のく頃
頭上を鴨たちが戻って来た
あの川面に降りて行く
急に枯木から白鷺が舞い上がる
大きな羽ばたき きれいだなあ
冬晴れの空高く
とんびがゆったりと弧をかいている
鳥達の世界はきっと豊かだろう
あこがれを抱いてもっと歩く
今 私は温かく優しい気持ちになっている

   一日の終わりに              山本ルイ子

「またね」と手を振って階段を上る
何度か振り返り下で手を振っていた
私も手を振りまた階段を上る

上りきった所でもう一度振り返ってみると、
まだ手を振っていた
思わず階段を降りてしまいたい気持ちを抑え手を振り、角を曲がった

ホームで電車を待っていると、さっきまで忘れていた寒さがよみがえる
ブルブル震えながら電車に乗った

心地よい温かさについ眠ってしまった
目が覚めたときはもう降りる駅だった

駅を出て歩いてると半月がとてもきれいだった

今日も幸せな一日だったと身にしみる思いだった

  賢いという事                 伊藤一路

賢いとは先が読める事
先が読めるという事は大量の情報や知識を持ち処理する力があるという事
そして今その為に何をしなければいけないかを知っている事
今の行動が一時間後の為なのか明日の為なのか
一年後十年後の為なのか遠い未来の為なのか
賢い人ほどずっと遠くを考えて行動している
周りの人や日本の為世界の人々の未来までは無理としても
せめて自分の十年先ぐらいは読めてその為の今でありたい
そういう賢い男でありたい

  たどり着くまで                大戸恭子

たどり着くまで、たどり着くまで
この悲しみも、悔しさも、切なさも、
走っていれば 必ず
時が解決してくれるから
それまで、それまで
苦しくても 走りつづけよう
だれが 一番に たどり着いても
人それぞれだから、それは許して。
きっとその順番は廻ってくるから
たどり着くまで、たどり着くまで
走りつづけよう

  足音                     大場 惑

凍てついた大地
果てしなき道を
一人 行く

景色は移り変わらず
足あとも残らず
天地は沈黙し

地平線を闇が覆い
絶対零度のとばりがおりて
ただ固い足音が響く