詩誌「詩人散歩」(平成28年夏号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  もみくしゃ                      浪 宏友

もみくしゃなぼくが
風にもまれて
影絵の街を運ばれていく

静まり返った雑踏
数えきれない急ぎ足が
ぼくを踏みにじり 通り過ぎる

ぼくは探しているのだ
もみくしゃになったぼくを置き去りにした
あのときの あのひとを 探しているのだ

ぼくが行く先々には
暗がりばかりが横たわり
身を寄せようとすれば
追い払われる

あのひとをみつけられない
あのひとはどこを歩いているのか

いつのまにか あのひとの影が
ぼくのなかで もみくしゃになり
ぼくといっしょに 風にもまれて
通りから 通りへ
影絵の街を運ばれていく

  そよ風の中で                中原道代

うららかな朝
おさなごを抱いて歩く
木木の若葉がそよ風に揺れている
小さな手がそっと伸びる
揺れる葉にさわる こわごわさわる
はじめてふれるやわらかな葉
私を見てニッと笑う 私も笑う
揺れる葉を 何度も 何度も つかまえる

つばめが近くを飛び交っている
巣造りが始まった
子育ての季節がやってきた

腕の中が重くなってきた
愛らしい顔が私の胸に沈んでいく
今だから 聞こえる音
今だから 見える景色
もう少しこのまま風に吹かれていよう

おかあさんが帰って来た
おかあさんに抱かれて笑う 弾んで笑う
みんなも笑う
ああ この安堵感 いいなあ……

   日常の中で                山本ルイ子

新緑の葉が風にゆれ、光が反射してまぶしかった
真っ青な空に大きな雲がゆっくりと動いている
電車から眺める景色は一瞬にしかないけれど、
きれいな光景は目にやきつく
とてもいい季節になったなと改めて感じた

電車を降りた私は、人の波にのまれながら消え去っていく
いつもの日常に戻っていくのだ

  仕方ない                   伊藤一路

やりたい事がある
やらなくてはいけない事がある
やらなきゃいけない事を優先すると
やりたい事は後回し
それはストレスになる
そんな時の魔法の言葉
「仕方ない」
この言葉はマイナスの意味ではない
好きな事のためには仕方ない
大切な事のためには仕方ない
諦めるのではなくて大切にとっておくのだ
スーと心の中を流れるように邪魔者は消えてゆく
「仕方ない」は意外とポジティブな言葉だ

  命の光                    大戸恭子

本当に身勝手な生き方をしてきた
命の灯火さえも消してしまいそうな程
親不孝な生き方をしてきた。

今、心ある人達から、命の灯火の元を
少しずつ分けてもらいながら
強い光を放つ命の灯火を燃やしている。
 
さあ、この清らかで、まっすぐな炎を
皆の心に分けていこう
いつか、命の灯火の元を分けて
もらった時のように。