詩誌「詩人散歩」(平成28年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  寂れた町の片隅で                   浪 宏友

きみは ぼくの恋人のはずなのに
ちっとも
ぼくのそばにいてくれない

あわただしい足音をたてながら
いつのまにか どこかへ行って
いつのまにか 戻ってきて
ぼくの腕に抱きついて
楽しかったことを
面白かったことを
次から次へと ぼくに ぶつけまくり
不意にぼくを突き飛ばして
たちまちすがたが見えなくなる

きみは ぼくの恋人のはずなのに
見知らぬ男の子をつれてきて
ぼくの目の前で
ああだこうだと縺れ合って
また 連れ立って行ってしまう

いつも取り残されるぼくは
寂れた町の片隅で
きみのあわただしい足音を待っている

ある日 きみは
  ずっと遠くに現れて
からだいっぱいに両手を振って
からだいっぱいに投げキッスをして
そのまま街路に掻き消えてしまった

きみは ぼくの恋人のはずだったのに
それっきり
すがたを見せてくれない

寂れた町の片隅で
ぼくは
きみのあわただしい足音を思い出しながら
ひとり
暮れなずむ通りを歩いている

  積み木のかくれんぼう            中原道代

秋の日ざしがさっと消えた
うす暗い部屋のかたすみに
積み木たちが残されている
さあ 木箱のおうちに帰りましょう
ひとつ ひとつ 並べていくと
丸と三角の席が空いている
まだ どこかに かくれているよ
どこだ どこだ
カーテンのかげに 三角さんみーつけた!
丸さんはどこだろう
テレビの向こう 絵本の中 ソファーのすき間
みつからないなあ
一息入れて子供の動き思い出す
気合を入れて もう一度
おもちゃ箱をかきまわす
黄色いコップの奥底に
きっちり はまって かくれてた

   我が子                  山本ルイ子

新しい生命を授かった
始めは半信半疑

お腹の中で成長していく我が子
胎動も感じてきた
ご飯食べてるのかな?
  それとも遊んでいるのかな?
愛らしくてたまらなくなる
守らなきゃ、そう強く思う

色んな思いが私を母へと導いてくれる

だから、このままでいいんだ
何も頑張らず、考えず、
日々を楽しんで行けばいい

私を産んでくれた母のように
、 私もきっと、母になれるから

  信じる                    伊藤一路

信じるということは相手の問題ではなく
自分自身の問題
ネガティブな発想が猜疑心を生む
一つの事実をその瞬間に
真っ直ぐに受け止めるだけでいいのに
それで終わればいいのに
その事実一つしかないのに
あれこれ無駄なものと結びつけたがる
何も考える必要はない
根拠もなくただ信じれば良いのだ
ただただ信じれば良いのだ
信じられないと言う事は
自分を信じていないと言う事
不安だと言う事
どっしり構えたい
穏やかな表情で

  ぶちこへ                   中野典子

ぶちこ
君はこの広大な公園のどこかで眠って
いるんだろう。
むりもない あれから十余年も経つのだから
生きているはずもない

今、あなたが私の体の中を風になって
吹き抜けてゆく
今、あなたと会話している。

ありがとう
私の心に喜びを
かわいい思いをさせてくれて
悲しみにうちひしがれていた私は
どんなに癒されたことか

雪のふりつもる夜、あなたはどこにいたの?
太陽のぎらつく夏、あなたはどこにいたの?
喉がかわいて仕方がない時
おなかがへってどうしようもない時
あなたはじっと耐えていたの?

ごめんなさい
あなたを飼ってあげられなかった私を
どうか許してほしいの

今度、生まれ変わったら
私のうちに来てほしいの。
あたたかい暖炉の前であなたを
ぎゅーっと抱きしめて離さないから
絶対に野良猫なんかにしないから