詩誌「詩人散歩」(平成29年夏号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  ふたりして                      浪 宏友

突然の銃声
うめき声
怒鳴り声
駆け出す靴音
撃ち合いが始まった

逃げる
隠れ場所を探す
近くで爆発
崩れる
真っ暗になる

気が付くと
瓦礫に埋まっていた

全身が痛む
逃げなければ
立たなければ

大きな壁が見えた
よろめきながら
はいずりながら
壁の陰に倒れ込んだ
小さな叫び声がした
柔らかかった
女だった
おびえていた

すぐ近くで爆発
爆風を受けた
思わず 抱き合った
しゃべらなかった
離れなかった
繰り返す爆発
なおも きつく 抱き合った

静かになった
手を握り合って 立ち上がった
手を握り合ったまま 歩き始めた

昼間なのか
夜なのか

爆発音を背中に聞きながら
手を離さずに歩いた

爆発音から遠ざかりたくて
ふたりして
ひたすら
歩き続けた

  風の吹くままに               中原道代

つないだ手をふりほどき
幼な子は走り出す
土手に続く坂道を一目散に駆けて行く
子供の背中目で追って
ゆっくり ゆっくり 登って行く
川辺の桜はすっかり若葉
野原は花の舞台になった
今が主役のタンポポさん
青い帽子のムスカリの群
大事な脇役ヒメオドリコ草
花から花へ 子供は蝶になっている
風にあわせて草花が踊る
小鳥が上で歌います
私の席は特等席
ブラボー!と大きな拍手を送りましょう
舞台裏 次の花が待ってます

目を遠くに向けてみる
雪解けがはじまった北アルプスの山々が
私の目に
力強く迫ってきた

   気にすんなよ                大場  惑

なにもありゃしない
ただ ほんの少し ひっかかっただけ
勝手なこと言ってるなと
ほんの少し しゃくにさわっただけ
気にすんなよ
別に なにもありゃしない

あしたはどうするって?
そんなこと わかりっこないだろう
会ってくれるかって?
そんなこと わかりゃしない
あしたになんなきゃね

そっちはそっち
こっちはこっち
気にすんなよ
別に なにもありゃしない

  花                      伊藤一路

たくさんの花が咲いている
黄色い花 ピンクの花 白い花
いろんな形や模様で個性を出す
人間に勝手に付けられた名前で呼ばれ
皆を楽しませている
ただ ただ 花達は咲いている
見てもらうためでも
自慢するためでも
勝つためでもなく咲いている
だから美しい
人はそれぞれの年齢で生き方が変わる
今年は「知命」の歳
天命を知りシンプルに
花のような生き方をしてみたい