詩誌「詩人散歩」(平成14年春号)
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  遠いぼく                 浪 宏友
君がさがしているぼくは
遠い日のぼく
青い野原に立ち上がり
澄み切った空に両手を広げていた
あの日のぼく

君が求めていたぼくは
はるかな国のぼく
いくつもの太平洋を小舟で渡り
折り重なる大陸を裸足で越えて
それでもたどりつかない異邦のぼく

君が呼んでいるぼくは
暗闇の底に潜んでいるぼく
光さえも暴くことができない
音さえも伝わることができない
深い静寂の奥のぼく

それでも君は
ぼくのために
孤独の道をあゆみ続ける

  君からの手紙               浪 宏友
君からの手紙が届いているという
ぼくのポストにいっぱいだという
けれど ぼくは 一通も読むことができないのだ

君は毎日書いているという
透明なペンで透明な紙に
透明なインクで書き綴っているという
けれどもぼくは 一通も目にすることができないのだ

青空のように
せせらぎのように
打ち寄せる波のように
梢の風のように

君からの手紙は毎日配達されているという
けれど ぼくは
君がたちこめている手紙を
ついに手にすることができないままなのだ

  飛行機の旅                山本恵子
雲って不思議幼い頃
母が布団を作っている
姿を見ながら思いついた
真綿を広げ延ばしたり
薄くなっても途切れない

雲は薄くなったり厚かったり
水も含めたり山も見せないし
海も見えず白い雲が目の前に
広がっている中を通り抜ける
美しい無我になって見つめる

江ノ島海岸見えてきた私東京が
好きなんだ飛行機に乗ると耳が
痛い着くまでガムを噛んでいる
おかげで着陸できました
ガムさん今日もありがとう

  無題                   山本恵子
いつかこの日がくるんだという
考えたくないが本当だった
幾多の思い出を胸に今日が最後
別れがこんなに辛いものと知らされる
修行してきた筈なのに

心の深さ共感し各々違った思い出
の中に今日はいるせめて笑顔で送りたい
堪えきれずに頬濡らすひとすじの涙
やっぱり我慢が途切れたか
こんな筈ではなかったに

私の居ない所から去ってほしい
もうこれっきりではないのに
いつか会える日楽しみに
銀座の柳の下か公園のブランコで
東京の空をみつめて指を折るいま

  無題                   山本恵子
夕方浜辺に立って海のなか
カモメがみずあそびしていた
話しかけたが答えてくれずさみしかった
会話ないのに変なわたし
伊豆のやまやまが美しく冷え込んで
寒そうに見える感じるのは私のみか

山も海も見方で変化し
心と同じように自然に生かされて
生きる喜びを感謝して自己を見つめる

  二羽のハト                中原章予
今日も天気 窓に朝日が光る
いつもまどの外にとんで来る二羽のハトネグラはどこなの
あなたたち夫婦? それとも恋人同士?
何時も仲良く クック クック
一羽がとんで来て二羽の間に入る
横恋慕しているのかなあ
時々入りこむ一羽
たちまち殺気立つ三羽
女ハトをさらいに来たのか
ハトは平和の象徴
仲良くしてね
青空高くふわふわと雲流れ来て
何時の間にか青空をおおいかくす
夜は雨か
二羽のハトはどこでねむるのだろう

  光                    中原道代
新春の朝
太陽の光は雲に山に水に
すべてのものを照らし
それぞれが生き生きとかがやいている

仏の光は常にこの私にも
そそがれている

あたたかな光を体中にあびて
新たな一歩をふみ出そう
私をかがやかせるのは
私自身なのだから