詩誌「詩人散歩」(平成29年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  追いかける              浪 宏友

きみは 逃げる
ぼくは 追う

きみは 隠れる
ぼくは 捜す

きみは 走る
ぼくも 走る

逃げるきみに
ぼくは 追いつく

けれど ぼくは
きみに 追いつけない

もう 手が とどくのに
伸ばした手が きみに とどかない

きみが 走る
ぼくも 走る

きみが走る道
ぼくが走る道
すぐ近くなのに
交わらない

きみが 走り去る
ぼくは 後を追う

ぼくは きみを 見失い
ひとり 走る

  今を楽しむ             中原道代

落葉積もった小道を歩く
さくさく さくさく
心地よい音
やわらかな感触
小きざみに歩いて行く
小さな足が追いかけて来る
きゃ! きゃ! と歓声が上がる
目の前が明るくなった
広い道に大きな水たまり
きのうの大雨でできた池
足もとにさまざまな小石達
小さな手が素早く拾って投げ入れる
ドボン! ピチャン! ボョーン!
みんな ちがった音がする
幼な子たちの真剣な顔
私も子供になっている
かけがえのない今
もっともっと楽しもう
秋の風にのって走り出した子供らを
本気になって追いかけた

  不安                伊藤一路

不安になる
これが正解なのか未だに悩む
不安になるのは覚悟が足りないからなのか
覚悟が決まれば不安などないはず
じゃあなぜ覚悟が決まらないのだ
覚悟ができないのは僕自身がブレているから
正しい事が見えてないから
欲や願望が渦を巻いている
本当に大切な事は何なのか
正しい答えは何なのか
不惑の歳は過ぎているのに迷う
天命など程遠い

  ノスタルジー            中野典子

生まれ育った街に来た。
懐かしく、悲しい。
そこに私の帰る家はない。
母亡き後、主を失った家に今は、
見知らぬ誰かが住んでいる。
子供が産まれてから、毎日のように
通った実家。
笑顔で迎えてくれる人がいないのは
もの哀しい。
街のそこかしこに、若かった私、幼い子、
母の姿が在った。そこに居た。
もう戻れない懐かしい日々。
昔は良かったという年配の男性のことを
ノスタル(爺(じい))ジーというらしいが
私は爺にもなれないでいる。