詩誌「詩人散歩」(平成30年春号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  小さなあなた             浪 宏友

大きな空の真ん中から
大きな声が聞こえる
声は四方に響きわたり
八方に広がり
無限の果てにぶつかって
跳ね返されて
激しくうねりながら
空の真ん中に戻ってくる

戻ってきた声が
大きな空の真ん中でぶつかり合い
まばゆい光を発し始める

光はたちまち広がりはじめ
天女の衣の裳裾のようにたゆたいながら
七色の光の海となって
空いっぱいに広がってゆく

めくるめく光の重なり合うところから
思い出したように生まれてきたのは
小さな あなた

愛くるしい瞳で
光の海に立ちあがったあなたは
これから
どちらへむかって歩みはじめるのだろう

  宝もの               中原道代

人影のない冬の河川敷
風の子はとびきりの笑顔でかけ回る
私はこぶしをにぎりしめ
北風に少し強気になっている
土手の上 クレーンが大きな角材を持ち上げた
三角だー!
子供が叫ぶ
屋根にゆっくり下ろしていく
今度は四角が下りてきた
積木がお空で大変身
大きなお家ができていく

梢でカラス達のおしゃべりが始まった
思いきり上を見上げると
真っ青な空にまわた雲が広がっている
風が東へ東へ引き伸ばしていく
きれいだなあ
ゆっくりこぶしをゆるめた
体がほどけていく
枯木の下で
子供が集めたハリエンジュのさや
私の手の平で
宝ものになっている

  嫌い                伊藤一路

怒っている人がいる
機嫌が悪い人がいる
駅員に怒ったり 店員に怒ったり 自然に怒ったり
世の中には仕方のないことが沢山ある
努力や お金や 運や 権力や 暴力を どう使っても
どうにもならないことが山ほどある
自分の思い通りにしたいんだろうけど
そもそも発想が間違ってる
多分 気付くまでずっと怒ってるんだろうな
ずっと周りや他人のせいにして怒ってるんだろうな
どうして怒るのか原因が理解できたら
怒っている人のことも好きになれるのかな
怒っている人や機嫌が悪い人が
とても嫌いだ
諭してあげられるレベルに僕はない
時々機嫌が悪いからだ・・・・

  澱み                大場 惑

通りすぎて来た長い道のり
振り返れば
古びた時間が立ち枯れている

そちこちで出会った女たちの香りが
ただよう時間にまぎれている
女たちの呉れた小さな夢たちが
時間のすきまに見えかくれする

立ち止まって未来を見ようとすれば
もつれた時間が足もとにからみつく
からみついた時間を引きずり引きずり
重たい歩みを運んでいく先には
静まりかえった澱みしか見えない