詩誌「詩人散歩」(平成30年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  夢よ               浪 宏友

夢よ 君は
どこに隠れてしまったのか

昔は あちらにも こちらにも
君を 見かけていたのに

たとえば 寒い朝 公園を歩くと
霧の中に
君の影が浮かんでいた

たとえば バスに乗って 窓の外を見ていると
路地の入口に
君がぽつねんと立っていた

たとえば 場末の大衆食堂に入ると
奥の席で
君が 頬杖をついていた

たとえば
  暑い夏の午後
汗を拭き拭き歩いていると
公園の樹陰で
君が 本をめくっていた

夢よ
君は
もう 二度と現れないのか

昔は 振り返れば そこに
君のすがたがあったのに

  小春日に             中原道代

野原で 子供と
シャボン玉を吹いている
次々と生まれる
かわいいシャボン玉
キラ キラと
秋風に舞って消えていく
子供の瞳も光っている
一緒に飛んでるとんぼには
はじける音が聞こえるだろう

私の足元に
プラタナスの葉が舞い落ちた
ひと葉 また ひと葉
風に乗って降りていく
さようなら さようなら と言いながら

遠くの山峰が白くなっている
冬は もう そこまで来ている

  自然に            伊藤一路

人は僕に何を求めているのだろう
特別なものを持たない僕に
一体何を望んでいるのだろう
それを考えて答えが出たことはない
自分の気持ちにもっと正直に生きる
それを受け入れてもらえるのか
受け入れてもらえないのかはどうだっていい
そう思えるようになったらとても楽になった
楽しめるようになった
正しいのか分からないが自然体がいいと
そう母親に言われていたのを思い出す
正しく自然体でありたい

  四季のつぶやき         大戸泰子

カラオケの 窓を曲がって 行く電車
ハリー・ポッターの 分数線か

年をとり 腰も痛いし 目もかすむ
ならば人間 角もとらねば

雰囲気が いつもと違う 路線バス
デザイン変わり どこに座るか

大戸家と 佐藤家の縁 不思議だな
足跡二つ まだまだ続く

  小さな宝もの          中野典子

猫と暮らす日々はとても心が豊かだ。
帰宅すると玄関まで迎えに来てくれる。
体全体で、また会えた喜びを表現してくれる。
しっぽはぴんぴんに、
あたまを足にすりつけて、
うれしい、うれしいと。
人間のお迎えは、子供が小さかった頃だけ。
寒くなってきて小さいねこが膝の上に座ってくる。
冷たい肉球がだんだん温まって、こちらもホカホカ。
丸い毛のかたまりがとても愛おしい。
猫は眠る。
温かい膝の上で、ともに眠る。
もう十一年も、こういう冬が来ている。
猫は眠る。
膝の上で腹が上下している。
いつかはこの子が死ぬ日が来るんだろう。
膝が寒くなる前に、この温もりを大切に、
心の中に刻みつけたい。
いつも慕ってくれてありがとう。