寒い夜 浪 宏友 |
忘れられた裏通り 埋もれた酒場 迷い込んだ少女がひとりつぶやいている
立ち去る人のうしろ姿を見送って
すぐそばに立っているような気がして
行くあてなどないけれど
聞くともなく 聞き 頷くともなく 頷き
少女をあとにして凍てつく外に出る
見上げると
こんな寂びれた場末でも
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母の形見 中原道代 |
暖かな部屋の窓から 青空が広がっている 外は氷点下 白いものが ふわふわ ふわふわ 舞っている 風花だ きれいだなあ 山からの贈りもの
終戦間もない
幼子が
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牧師 伊藤一路 |
世界一のバーテンダーに選ばれた男性が 「僕はバーテンダーであるのと同時に 牧師でありたい」 と言っていた一言が忘れられない 彼はお酒を飲みに来たお客さんの話を聞き 励ます時もあれば叱る時もあり 一杯だけ飲ませて家に帰す事もあり 朝まで付き合う事もあるという 彼にもお客さんにもお酒は一つのツール そんな彼のお店でお酒を飲み 気持ちと心を豊かにしてお店を後にする 最終的にはこうありたい 目指すところは職人ではなく 美容師というツールを使った牧師でありたい そんな美容師がいてもいいんじゃないかな って道程は遠いけど・・・
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四季のつぶやき 大戸泰子 |
この香り 約束どおり 春が来た 沈丁花咲き 街に漂い
ストーブを 点けるか否か 迷う頃
こいのぼり 空にふくらむ 夢魚
春風が コートを脱げと 誘うから
君に似た 固い蕾の 梅の木も
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わからない 大場 惑 |
男は 困った 自分が 何処にいるのかわからない 人でもいれば 尋ねることもできるのだが 人影らしきものもない 「誰か居ませんか?」 喉までせりあがってきた声を あわてて呑み込んだ 声を出したら 何もかも 崩れてしまいそうな感じがしたのだ 男は歩き出した 足音がしなかった それどころか 地面を踏んでいる感触すらない 男は 立ちすくんだ 息をひそめて もういちど まわりを見回した 依然として 自分が 何処にいるのか わからない
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