詩誌「詩人散歩」(令和元年夏号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  川面               浪 宏友

「私を さがしてね」

そう言ったきり
背中を見せて行ってしまった きみ

追いかけたい気持ちを噛み殺して
立ち尽くしてしまった ぼく

夕暮れの堤の下には
川面が静かに揺れていた

きみをさがしたい気持ちを噛み殺して
あの日以来
立ち尽くしっぱなしの ぼく

ぼくの乾いた心の奥で
化石となってしまった君の声が
夕暮れの川面に揺れている

「私を さがしてね」

  原っぱ              中原道代

川の音を聴きながら
萌え出た草を踏みしめて歩く
青葉の息吹をいっぱい吸っている
梢の小鳥たちも
足元の小さな虫たちも
このおいしい空気吸っているんだね

この広い原っぱを
一緒に走り廻った女の子
あの子は幼稚園児になった
わくわくどきどきしながら
本気になって遊んだ河原
今私は心から安堵している
さあ 私らしく歩を進めよう
また きっと
心踊ることにめぐり会えるから

夕暮れに
土手の上の拡声器が鳴った
「放流します!」
山の雪融けが進んでいる

  失敗と気付き          伊藤一路

親の仕事は子供に気付かせること
親も子も気付かなければ自ら正しく行動はできない
理想は自分で気付き自分で行動すること
子供には色んな事に気付いて欲しい
言葉で伝えて気付いてくれる事もあるけれど
自分を振り返ると気付きは失敗する事だった
死なない程度の失敗で沢山気付いてきた
こういう気付きは忘れない
親の仕事は子供に死なない程度の失敗を
させる事ではないかと思う
その為にはしっかり見守る
子供と一緒に失敗をして失敗と気付かせる
失敗させないように怪我をさせないように
親が手を引いてばかりではいつまでも子供は気付けない
子供の失敗をしっかりと見守りたい
そして気づく事ができたならそれは失敗ではなくなる

  四季のつぶやき         大戸泰子

葉桜を ただの樹木と 思う頃
青い空には 入道雲よ

このバスの 冷房少し キツイかな
夏の暑さも 瞬時に消える

雨に濡れ 香りを聞けば 紫陽花の
色が変わって 今日は水色

水たまり 青空映り 見上げれば
日差しも強く 熱い風吹く  

  老いぼれ           大場 惑

冷え切った闇の底で思い出す

あのころは
いつも不機嫌な父親がいた
愚痴ばかりを唱える母親がいた
金をせびり続ける弟がいた
いつも目を吊り上げている妹がいた

あのころは
俺の手元の札束を 物欲しげに見ている奴らがいた
ペコペコとおべっかつかいがまとわりついていた
愛していると言いながらねだり続ける女たちがいた
憎しみをあらわにする負け犬がいた

気がつけば とっくに 誰も居ない

冷え切った闇の底で
二度と立ち上がらない痩せこけたおいぼれが
空っぽの日々を思い出している