詩誌「詩人散歩」(令和元年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  手と手              浪 宏友

手を離さないでね
真っ暗闇だから
一度離したら 二度とはつなげないから
ぼくの手と
きみの手と
しっかり 握りあって
決して 離れないで 行こうね

探り 探り 歩いている僕たちを
烈しく突き飛ばしていく人たちがいる

支え合いながら ようやく歩いているぼくたちに
しがみつきぶらさがる人たちがいる

力いっぱい握りしめているぼくたちの手と手を
引きちぎろうとする人たちがいる

だから
手を離さないでね
一度離したら 二度とはつなげないから
ぼくの手と
きみの手と
しっかり 握りあって
決して 離れないで 行こうね

いつのまにかつないでいた手と手だけれど
なんのわけもなくつないでいた手と手だけれど
今は もう
決して離してはいけない手と手だから
ぼくの手と
きみの手と
しっかり 握りあって
決して 離れないで 行こうね

  嵐が過ぎて            中原道代

洗たく物をたたんでいたら
ひよどりのさえずりが聞こえてきた
そっと障子を開けてみる
目の前のフェンスに
山茶花の枝に
となりの屋根にも
ピヨピヨ ピヨピヨ
ピーピーピー
チチチチチー
いろんなことばがとびかっている
心なしか興奮ぎみ
「きのうの風 すごかったね!」
「向こうの川が大変!」
なんて言っているのかな
私も仲間に入って
にぎやかなお喋りを聞いている
重い心が少しずつ晴れていく

急に鳥たちが飛び立った
空を見上げると
ヘリコプターが近づいて来る
旋回するプロペラの音が鳴り響いていた

  変化              伊藤一路

絶えず変化する
長い期間で変化するもの
短い時間で変化するもの
一瞬で変化するもの
永遠に同じでは居られない
同じな訳がない
気付いていないだけ
変わらないために変化する
変化に対応し変化する
自分の意思では止められない変化に
正しく柔軟に変化する
そうやって変わってはいけないものを
守らなければならない
余計なことに囚われずに

  くず鉄            大場 惑

ロボットがやってきた
人間顔してやってきた
拝んでる奴らがいる
ご利益が欲しいのだ
ロボットがご利益を振舞う
予定通りのご利益を振舞う
押し戴く奴らがいる

ロボットは歩いていく
人間顔して歩いていく
ご利益を振る舞いながら歩いていく
拝む奴らが増えてくる

ロボットが止まった
煙が出始めた
煙に包まれた
ご利益は おしまい
人間たちに担がれて行った

何処へ
くず鉄捨て場へ

  白い雪            大戸 恭子

雪の舞う むこうの 貴方の 住む町へ
この想い この切なさを 届けたくて
ただ届けたくて

物言わぬ 雪の様な 貴方の 横顔が
この胸に この心に 印される
ただ印される

白い雪 見る度 貴方の 事を想う
その白い肌 その白い指 触れたくて
ただ触れたくて