詩誌「詩人散歩」(令和02年春号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  動けない             浪 宏友

時空のゆがみに挟まれて
身動きできない ぼく

空間は 暗いのか 明るいのか
時間は 進んでいるのか 後ずさりしているのか

揉みくしゃにされて
バラバラにされて
散り散りにされてしまった ぼくが
いつのまにか まるめられて
時空の坂を転がっている

たどり着きたいところは 確かにあるのだけれど
それが何処なのか 見当をつけることさえできない

朦朧とした ぼくの前を
赤い靴が スタスタ 通り過ぎて行く

それが きみだと分かっているのだけれど
呼び止めることもできない
追いかけることもできない

きみの姿を目で追うことさえも
すでに
できなくなっている
ぼく

  新しい一歩            中原道代

ちょっとひとやすみと言いながら
居間の長いすに腰かける
前の棚に目をやると
子供たちがこちらを見て笑っている
お節句 七五三 入学式
思い出の写真の数数
みんなの笑顔に 私も笑う

柱には 背くらべの鉛筆の印
大きな三角定規で測った印
  中学生の女の子 直立不動で立っていた
  私 思いきり背伸びして測ったっけ
  精一杯の日々を思い返している
  はやく測って! 今度はわたしの番!
  あの子らのはずんだ声が聞こえてきそう
もうすぐ
子供たちそれぞれの
新しい第一歩が始まる
私も背筋を伸ばして立ち上がった

  嫌い              伊藤一路

機嫌が悪い人が嫌いだ
怒っている人が嫌いだ
その人達の頭の中は「自分の思うようにならない」
それだけだ
その理由が嫌いだ
仕方がないことが身の回りには沢山ある
それを直接無理にどうにかしようとするから
上手くいかず機嫌が悪くなる
現実を理解したり自分の思うようにしたかったら
「じゃあどうしたらいいかな?」それしかないのに
機嫌が悪くなったり怒ったりする必要はないし
それじゃどうにもならない
その暇があったら精一杯考えた方がお利口さん
特に子育てにマイナスの感情はいらないなって
子供と向き合うようになって思う

  生かされて          大場 惑

私は 生きようとしている
だが それだけで 生きられるのか
大自然なしに生きられるのか
水無し 空気無し 大地無し
それで 私は 生きられるのか

私は 生きようとしている
だが それだけで 生きられるのか
人の居ない世界に生きられるのか
家族無し 町無し 世界無し
それで 私は 生きられるのか

私は 生きている
大自然に支えられて生きている
水がある 空気がある 大地がある
その中で 私は 生きている

私は 生きている
人々の間で生きている
家族がいる 町がある 世界がある
その中で 私は 生きている

私は 生かされている
大自然に 生かされている
多くの人々に 生かされている
私は 生かされて 生きている

私は これまでも
  生かされて 生きてきた

私は これからも
生かされて生きていく

生かされて
生きていく