詩誌「詩人散歩」(平成14年夏号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  雪の向こう                浪 宏友
  もう戻ってはくれない人を
  降り続く雪をすかして探している
  ふたりの季節はまたたくまに過ぎて
  再び巡る春はない

  山並みを遠くみながら
  畑道をどこまでも歩いた
  手と手がおそるおそるふれあいながら
  あたたかな思いを感じ取りながら

  二両編成の気動車が遠い山すそを走る
  静まり返った景色の中
  ふたりは並んだままうごかない
  時間が止まっていたあの日

  短い手紙がとどいたあの日
  遠い世界に旅立った人
  あてどなくさまよいはじめた目の前を
  降り続く雪が隠してしまっていた

  胸の奥の声                浪 宏友
  君の声がする
  胸の奥の
  はるかな世界から
  君の呼ぶ声が聞える

  裏切りつづけてきた日々
  涙の海も渇ききって
  ひからびた愛がひとつ
  砂に埋もれかかっている

  足跡はとっくに消えて
  あの日の夢も
  地平の遥か向こうに
  凍りついている

  君の声は 細く 遠く
  胸の奥から
  涌き上がり 立ちのぼり

  つれづれ                 中原章予
  教会の帰り 車窓にうつる杉林
  黄色く色づく杉の花
  風にふかれて 真黄色の粉をふく
  杉花粉
  車中の老人
  花粉症の悩み訴えおり
  聞きつつ花粉症なき己が身ふりかえり
  健康を下さった神仏父母に感謝
  又新たに

  立春とは名ばかりの大霜の朝
  ホーホケキョとウグイス鳴き心あたたまり

  霜柱ガサガサふんで物干し台
  足下にけなげに咲く小さなスミレいとほしく
  見せて上げたき人は今は亡く
  ありし日を想い 又涙す

  日一日とあたたかさ増して春を感じ
  遠くに住む子に思いはせて
  心やわらぐ

  風花                   中原道代
  市街地に通じる跨線橋を車で走る
  うすぼんやりした日の光の中を
  風にのってふわふわと雪が舞う
  まるでたんぽぽの綿毛のように
  ほら手元のフロントガラスに
  歩く人の肩に舞い降りてすぐ消える雪
  「風花だ」と主人が言った
  きれいだなあ
  赤信号の間しばし見とれる
  ビルの向こうに目をやれば
  山の上は吹雪で白くかすんでいる