詩誌「詩人散歩」(令和02年夏号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  もうひとり            浪 宏友

轟音とともに地面がまくれあがった
まくれた地面が大きく跳ねた
土煙が舞い上がり 空を覆った
空中に放り出され 落ちて行く人影が見える

剥がれた地面が丸まり始めた
道路も 建物も 自動車も 人も 包み込み
ものすごい速さで転がり始めた

逃げろ
叫んだかどうかは分からない
とにかく走った
地面が吠えている
瓦礫が背中から襲ってくる

夢中で走るぼくに
とりすがる腕があった
それがだれだか確かめる間はない
腕をつかんで引きずるように走った
走った 走った 走った

やがて
静かになった

へたりこんでいる
ぼく
そして もうひとり
ここはあの世なのか
まだ この世にいるのか

よろよろと立ち上がった
ぼく
そして もうひとり
それがだれだか
わからないけれど

  春のおくりもの          中原道代

外に出たいとねだる子に
手を引かれてやって来た
ここは近くのお宮さま
誰もいない静かな境内
子供はぶらんこめがけて一目散
満開の桜の木の下
花びらが舞う
風に乗って舞う
広げた私の手のひらに
笑顔いっぱいの子供の上に
ひっそりとあるベンチの上にも
子供は目を輝かせ
吹きだまりの花びらを
両手にすくってまきあげた
澄みきった青空めがけて 高く 高く

今は会えない君たちも
この青い空を見てるかな
遠くの可愛いあの子らに
この花びらを届けよう
風に乗せて届けよう

ぶらんこのきしむ音
小鳥たちのさえずり

少女は道端のひめおどりこそうを
一輪摘んで歩きだす
子供の背中追いながら
私の心は静かです

  禍              伊藤一路

何が正しいのか何が正解なのか
こんなに悩んだことがあっただろうか
答えを出すための引き出しも少なく
不確かで蓋然性の低い情報ばかりが飛び交い
誰が喜び誰が悲しむのか分からない
やるのか? やらないのか?
自分の行動の中に喜びと悲しみが混在する
そして出した答えが
他人ではなく自分自身が出した答えであるならば
どんな結果でも受け入れる
誰のせいにもせず全てを理解して
結果をしっかりと見極めればいい
自分で出した答えなんだから

  人類が人類を滅ぼす      大場 惑

人類が人類を滅ぼす
そう思えて仕方がない
自分の国は人殺し道具をたくさん持っている
そう言って相手を脅かしながら威張り合っている
何かの拍子に
お互いに人殺し道具を使い始めたら
ほどなく世界中が灰燼に帰すだろう
辛うじて生き残った者たちも
残された負の遺産に侵されて
やがて立ち上がれなくなるだろう

滅びるのは人類である
地球はびくともしない
地球はただ自然の摂理のままあるだけである
人類も自然の摂理のままに生きていけば
まだまだ栄えるにちがいないのだが

壊し合い 殺し合いを 繰り返している
それが正義だなどと勘違いしている
そういう者が大多数を占めていたら
食い止める力が大きくならなかったら
人類は 滅びに向かって歩くことになるだろう