詩誌「詩人散歩」(令和02年秋号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  あなた              浪 宏友

あなたは 雲
青空を行く 真っ白な光
わたしは まぶしく 見上げている
あなたは 黙って 浮かんでいる

あなたは 雪
どこまでも 白く
どこまでも 広く
あなたの輝きに
わたしは踏み入ることができない

あなたは 山
遥か彼方に 聳える
わたしは 麓にたどりつくことさえできない
やがて日暮れて
あなたは 遠い世界に溶け込んでしまう

あなたは 夜
ダイヤモンドを埋め尽くす広大な天井
巨大な宮殿の片隅に取り残された わたし
どちらに向けば あなたがいるのか
さがすこともできない
立ち去ることもできない

あなたは 夢
闇にたなびくシルクのベール
ほのかな香りにひたされながら
後姿がほの白い
呼ぼうにも 叫ぼうにも 声が出ない
目覚めれば
明けない夜に 取り残されている わたし

  小さなお客さま          中原道代

なわとびに疲れた子供が
畳の上で何かを見つけた
黒い小さな豆つぶ
あっ 動いた!
だんご虫だ!
大きな瞳に見つめられ
だんご虫の赤ちゃんがあわててる
可愛い!
子供の手に捕まって
手の平でまんまるくなっちゃった
そっと置けばゆっくり起きて歩きだす
小さな 小さな お友だち

小さなこの命
いつくしむ子供のやさしい眼差しを
私はずっと胸に抱いて忘れない

だんご虫さん
そろそろお家に帰してあげようか
子供はちょっと淋しそうにしたけれど
草の下へ そっと 帰してあげた

  迷走中            伊藤一路

結果が出ないって原因は何だ?
やり方が間違ってるのか?
求めている物が違っているのか?
まだ結果の出る時じゃないのか?
不毛に思えて仕方がない
力が出ない
鬱なのか?
いや、こんな明るい鬱はいない
何かがずれてるんだな・・・何かが・・・
一度全部捨ててしまおうか
平和ボケしてんだな
追い込む勇気もない
この歳でこんなに迷走するとは情けない・・・
コツコツと進むしかないのか
結果を求めずに・・・

  魔羅             大場 惑

魔羅
悪しきもの
不幸をもたらすもの
心と心の隙間にひそみ
動き出す機会を狙っている

魔羅は我儘である
欲するものを手に入れようと画策し
手に入らなければ怒りを生じて暴れ出す
手に入っても満足せず
倍の欲望でさらに求める

魔羅は巧みである
虚偽を真実に見せかけ
悪を善に見せかけ
幸福へいざなうそぶりで
苦悩のるつぼに叩き込む

魔羅は険悪である
何かといえば暴力を揮う
腕力などの肉体的暴力
罵倒などの言語的暴力
無視などの精神的暴力
排除などの社会的暴力

魔羅に動きをあたえるのは
貪欲であり 瞋恚であり 愚痴であり
百と八つの迷いの群れである
これらを追い出せば
魔羅は居所をなくす

魔羅を見つけようと思うなら
自分を覗いてみよ
落ち着きなく動き回る
魔羅の影が見えるであろう

欲望に満たされている自分があったら
不平不満を募らせている自分があったら
怒りを発している自分があったら
魔羅の罠にかかっている
魔羅に蹂躙されている