詩誌「詩人散歩」(令和02年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  あなた              浪 宏友

座るあなた
どこまでも広い野原に咲くひと群れの花のように
明るい日差しの中で静かに輝いている

立つあなた
どこまでも高くそびえるメタセコイアのように
遠い憂いを秘めながら静かにたたずんでいる

歩くあなた
どこまでも深い夜空を行く星のように
はかり知れぬ過去を従えて静かに歩を進める

立ち去るあなた
どこまでも遠い未来という暗闇へ
後姿もとどめずに静かに消えてゆく

そして いま
あなたは
私のすぐそばに

  おながどり            中原道代

河原を歩いた
私の好きな小道
幾日ぶりだろう
雲間から来る光には
まだ少し夏の余韻が残っていた
野原に目をやると
青白い鳥が沢山飛びまわっている
おながどりだ
子供達が走りまわる原っぱで
今日はおなが達が遊んでいる
こんな近くで
あんなに伸び伸びと
なんてきれい
私は小さな木になった

冷たい風が通り過ぎた
私はそっと歩き出す
瞼におさめたこの景色
都会に住むあの子らに
はやく はやく 届けたい
秋の風が背中を押した

  鉛玉と紙風船         伊藤一路

彼は鉛玉
地面をゆっくりと確実に踏みしめながら進んでゆく
手のひらで押してあげると
重たいけれど力強くブレる事なく周りを見ながら進んでゆく
息を吹きかけたぐらいじゃ進まない
柔らかいが故に細かな傷は沢山付くけれど
彼が進む方向に影響はない

だからしっかり押してあげないと

彼は紙風船
風が吹くとコロコロ軽快に転がってゆく
その時の風向きであっちにコロリこっちにコロリ
転がしたい方向に上手に吹いてあげると<
あっという間に転がってゆく
鉛の玉の様に強く押しちゃうと潰れちゃうから進まない
そんな時は両手に乗せて息を吹きかける
あっと言う間に膨らんでまたコロコロと動き出す

だから上手に吹いてあげないと

正反対の二人だけれど
壊れず潰れず自分らしく前に進んで欲しい

  四季のつぶやき        大戸恭子

生きていく 静かな波に 身をまかせ
今日という日も 明日へ流るる

晴れた日は 洗濯物が 良く乾き
とりこむ時を 楽しみにして

また見たい あなたの笑顔 何度でも
ならば私も 笑顔になろう

参道を 幾人歩く 砂利道の
ジャリジャリという 明治神宮

耳澄ます 待ち合い室に タービンの
歯を削る音 悲鳴に聞こゆ

エアコンを つけることなく さわやかな
バスの車内も コロナ対策

  喧嘩             大場 惑

奪い合い 壊し合い 殺し合い
数十年 数百年 数千年 もしかしたら数万年
それは 大仕掛な喧嘩

無意味な喧嘩の陰に 逃げ惑う無辜の人びと
着の身着のまま
食べるものもなく
寝るところもなく

喧嘩は拡大の一途をたどり
破壊道具は巨大化し
やがて 地球上の ありったけを
壊し尽くしてしまうだろう
そしたら だれもいなくなって
ようやく おさまるかもしれない
けれど