詩誌「詩人散歩」(令和03年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  ひっそりと             浪 宏友

上目づかいに人を覗き
横目づかいにまわりを窺い
オドオドと 生きて行く

小さな音がすれば
ドキリと心臓が弾け
挨拶されれば
じんわりと冷や汗を滲ませ
話しかけられれば
言いわけの言葉を捜し回る

この世に
安心できる場所は
ひとかけらもない

出遭う人に
心ゆるしたら
何が起きるか分からない

誰とも目を合わせたくないから
下を向いて歩く

誰とも話しをしたくないから
曖昧な返事ばかりする

一日が過ぎ
また 一日が過ぎ
やがて 一年が過ぎ
いつしか 十年が過ぎ

人の渦巻く世間の底に
ひとり ひっそりと 沈んで行く

人々がせわしなく動く夕刻に
ひとり ひっそりと いなくなる

  お天とうさまと小さな手      中原道代

秋の日が差し込んできた
ゆっくりと私の一日が始まる
部屋の日だまりに正座して
束の間
お天とう様に包まれていよう
肩の痛みが薄らいでいくようだ
五十肩
今 母の痛みをしみじみと思う

お世話上手な孫娘
見様見真似でマッサージ
私のエプロンの紐
上手に結んで得意顔
「ありがとう」と言う度に
お手伝表に
可愛いシールが増えていく

私も元気に立ち上がり
さあ! お昼は何にしょうかな

  ありがとうが仕事         伊藤一路

世の中には沢山の色々な仕事がある
その中で「ありがとう」と言われない仕事はあるのだろうか?
長く考えてみたが一つも見当たらない
どんな仕事も直接的間接的に有難いと感じる人が必ずいる
時折「やりたい仕事が見つからない」と聞くが
やりたい仕事じゃなくて
「自分は何をしてありがとうと言ってもらえるか」
「自分はありがとうと言ってもらえる為に何ができるか」
ではないだろうか。
誰からも「ありがとう」と言われないのは仕事ではない
仕事をするという事は「ありがとう」と言われる事だ
三十五年働いて強く感じている

  四季のつぶやき          大戸恭子

寝たきりで 四十余年の 絵描き人
もう戻らない 赤塚ブルー

眠たくて 無理にご供養 するよりも
心をこめた お題目する

ひと夏の 暑い日差しが 遠のいて
ただよう香り キンモクセイよ

軽快な RYDEENなら 懐かしく
我もピアノで つま弾いてみる

我が家には ベーシストいて 頼もしく
ベース触れると すぐチューニング