詩誌「詩人散歩」(令和04年春号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  涙入りご飯             浪 宏友

あっ 高木君だ
嬉しくなって駆け寄ろうとしてギクッとした
となりにマミがいる
いるどころか 手をつないでいる
なんで!
なんで!

棒みたいになっている私をマミがみつけた
大きな声で わたしを呼ぶ
そして
そして
高木君を紹介する
背の高い高木君は
黙ってわたしを見下ろしている
どうして!
どうして!

じゃあね
マミはごむまりみたいにはずんで
高木君の手をひっぱって
街のほうへ向かう
私は棒みたいになったきり
動くことを忘れてしまった
いやだ!
いやだ!

急におなかが空いてきた
こんなときに
みっともない
でも 高木君を忘れなくちゃ
一目散に家へ帰って
夕ご飯でもないのに
お茶碗に山盛りにして
食べた
涙がご飯に混ざってしょっからかった
いやだ!
いやだ!
いやだよう!

  白い花              中原道代

兄の葬儀の後に
手渡された大きな花束
兄の面影をそっと花にしのばせて
持ち帰った
大きな花瓶に
あふれんばかりの白い菊
今夜はひと晩中
花たちが
思い出ばなしで賑わうだろう
凍てつく満州の冬のこと
引き揚げ船の話しとか・・・
幼ない頃の私になって
花たちの話を聞いている

ふと傍らの植木鉢に目をやると
すっかり葉を落したポトスのつるに
小さな芽が出はじめている

  順応性              伊藤一路

お袋がよく口にしていた台詞が「まぁいいか。」
当時は何て適当な人なんだと思っていたけれど
今となってはレベルの高い順応性だと気付く
環境の変化や天災や人災
歳をとることで起こる自分自身の変化
毎日の天気ですら同じ事は無い
その中で心地よく穏やかに生きていく為には
抗うのではなく順応していく知恵が必要だ
しかしそれをいつも邪魔するのは囚われ
ずっとこうしてきたんだ
今まではこうやってきたんだ
こうと決めたんだ
そんな事はやった事がない
お袋にはそんな囚われが無かったんだと思う
変化に合わせて「じゃぁどうしようかな」って変化する
できなかったら囚われずに前向きに「まぁいいか。」
知恵を絞って順応するポジティブなお袋の姿は
呆けた今でも変わらず健在で尊敬に値する