詩誌「詩人散歩」(令和04年秋号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  あのひと              浪 宏友

通勤電車の吊革にぶら下がって
どんどん飛んでく窓の外を眺めていると
あのひとが
ぼくのなかに
浮かんでは消え
浮かんでは消え
気が付いたら
降りるはずだった駅から電車が動き始めていた

昼前までに仕上げる仕事をデスクに広げ
あれこれ考えていると
上司の怒鳴り声が聞こえた
「これは! 何だ!」
気が付いたら
目の前の用紙にはあのひとの笑顔があって
仕事は一文字も進んでなかった

あのひとが染みわたってしまったぼくは
ふわりふわりと生きていた
気が付いたら
あのひとは いつのまにか 遠ざかり
あのひとは いつのまにか いなくなり
あのひとなしのぼくは
ぼんやりと
日暮の街を
長い影を眺めながら歩いていた

  なみあげは             中原道代

レモンの葉に
一ミリ程の白い粒三つ
「なみあげはの卵です」って
あのきれいな蝶になるって聞いて
頂いて来ました!

数日後
まっ黒い小さな幼虫に変身
虫めがねでのぞいて見ると
小さな頭が動いている
葉っぱの上で少しずつ 少しずつ
大きくなっていく
三匹の幼虫達

幼虫達は
あげは草の植木にお引っ越し
毎日虫かごのぞいては
どきどき わくわく
私 小学生になっている
虫さん 虫さん
今夜はおやすみ
また あした

  ポジティブ             伊藤一路

ポジティブ プラス思考 前向き 明るい
こうなる為のベースって何だろう?

感謝の気持ちを持っていると愚痴が出ないだろうから
笑顔でいられるかも
色んな経験をしてると先の予想が付いて不安な気持ちに
ならずに済むかも
効率的に生きようと思ったらくよくよしてる時間の
無駄に気付くかも
自分を好きだと他人の事も好きになって
楽しくいられるかも
没頭できる好きな事があるとワクワクして
明日が楽しみかも
他人と比較しない自分軸を持ってると
嫉妬する気持ちがないから
人に優しくなれるかも

こう考えてると
ポジティブって健康な精神ベースだな
もう一度原点に戻ろう

  現代人二題             大場 惑

   

  耳に心地よい言葉が語られると
蜜に集まる昆虫たちのように
人々が言葉に集まってくる
言葉に煽り立てられて
人々は一目散に突っ走り始める
何処を走っているのか 分からない
何に向かっているのか 知らない
走って 走って 走って
やがて 岩と砂だらけの荒野
姿の定まらない影たちが
行くあてもなく漂っている

   

あの 歩いている人たちは
あそこまで行くと
どうしても あの穴に落ちるんだ
ほら また落ちた
前の人が落ちるのを すぐ後ろで見ていながら
どうしても あそこを通るから
どうしても あの穴に落ちるんだ
ずっと前からそうなんだ
ずっと ずっと 前からそうなんだ
ほら また 落ちた
あの人も 落ちるよ
これからも みんな あそこを通り続けて
飽きもせずに あそこに 落ち続けるね
ずっと ずっと 落ち続けるね