詩誌「詩人散歩」(平成14年秋号)
◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  重たい空                 浪 宏友

君は いま
どこで 涙ぐんでいるのだろう
遠い銀河の光が 百億光年の時を隔てて
ようやく地球に届いたように
君の悲しみは 時を隔てて
ぼくの心に小さなゆらぎを作っている

君を求めるぼくの心は
空中に舞い上がった安物のガス風船
あてどなくさまよい やがてしぼみ
見知らぬ海に しばらくただよい
人知れず 暗い海底へ沈んで行く

君を呼ぶぼくはどこまでもひろがり
やがて 果てしない空間へ
形もとどめず 跡もとどめず

次元の壁にさえぎられて
ぼくは君を捜すことさえならず
時間の穴から覗き見ようとしては失敗し
そのたびに増していく空の重たさに
やがておしつぶされてしまうのだろう

  踊るひと                 浪 宏友

きれいなひとが
夢のなかで踊っている

風のように
流れのように
木漏れ日のように
空しい千切れ雲のように

近づいては 離れ
離れては 近づき
つかまえても
つかまえても
私をすり抜けて 
踊りつづける

きれいなひとが
いつまでも
いつまでも
踊っている

  藤棚の鳩                 中原章予

毎日毎日花をながめ独り言
おとうさん 花が咲きましたよ
今年は二房だけど
来年はきって沢山咲くわね
毎日ながめて ふと 気付くと
茂みに鳥の巣
中にはなんと平和の使者山バト
毎日見ても 巣の中静か
卵でも抱えているのでしょうか
ハトさんあなたいつ食事をするの
何日も何日も巣の中に
そして何日たったのか
クッククック 
親ハトの鳴声によく見ると
二羽の子バト
親ハト 外でクッククック
子バト
巣の中でパタパタ
いつの間にかとび立ち巣の中からっぽ
それでも母バト近くでクッククック
子を呼ぶ声か
もう とび立って居ないのに
やっぱり今日も クッククック

  境内                   中原道代

お宮の境内で子供達が遊んでいる
子供達は皆お祭りで買ったお面をかぶっている
男の子は平らな石の上でパッチンをしている
女の子はまりつきをしたりゴムとびをしている
どの子も皆幸せそうで生き生きしている
少しはなれて腰の曲がったおばあさんが
子供達の様子をじっと見守っている
その内 男の子のひとりに何やら言っている
孫のようだ
家から風呂の桶を持ってきてくれと頼んでいる
孫は文句を言いながらも走って帰る
急いで桶を持って引き返し
おばあさんに手渡す
おばあさんは「あんがと」と言って受けとり
桶を逆さに置き「どっこらしょ」と腰をおろした
子供達の元気な笑い声がいつまでも
境内に流れていた