詩誌「詩人散歩」(令和04年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  生きている             浪 宏友

生きている
ぼくは
生きている

生きて 歩いて ここまで来た
光に満ちた喫茶店
きらめくシャンデリア
真っ白なテーブル
ぼくが居て
きみが居る

香り高いコーヒーを前にして
ぼくは
温かさに身をゆだねる

澄み切った紅茶を見つめながら
きみは
静かな時を味わっている

ぼくが 声もなく話しかけると
きみは さざなみのように聞いてくれる

生きている
ぼくは そして きみも

喫茶店が 静まり返り
時間が 静まり返り
ぼくときみをつつむ世界が 静まり返る

ぼくはコーヒーカップに手を伸ばし
きみは紅茶にレモンをくぐらせる

  おにごっこ             中原道代

一年生の女の子
私のひざで
「あした学校行くのいや」と言う
どうしてって聞いたら
「休み時間が短いから」って
もっといっぱい遊びたい!
頬ずりしたくなっちゃった
「おばあちゃんもいやだった」って言ったら
どうしてって聞いてきた
「お勉強が嫌いだったから」って答えたら
泣きべそ顔がちょっと笑顔になっていた
お迎え来るまで
おにごっこして遊ぼうか
ケラケラ笑って逃げる子を
本気になって追いかける
せまいお部屋が運動場
疲れて座ったその先に
一輪ざしの金木犀
ほのかに甘い匂いがした

  じゃあどうする?          伊藤一路

とにかくイライラしたくない
嫌な事があったり
腹の立つ事があったり
思い通りにならなかったり

そんな時は必ず自分にこう問う
「じゃあどうする?」
怒ってもしょうがない
イライラしてもしょうがない
そんな時は「じゃあどうする?」
この癖がつくとイライラしなくなる
答えを出すためには考えなきゃいけないから
あの手 この手 その手
手を替え品を替え ありとあらゆる手段を考える

あとは実行のみ
とにかくやってみる
それでもダメなら
「じゃあどうする?」
まだまだ迷走の旅は続くのです

  自分を虐めるなよ          大場 惑

人から 虐(いじ)められたからといって
自分で 自分を虐めるなよ

私が悪いから あんなこと言われるんだ
なんて思ってる あなた
あなたの どこが どう悪いんだ
わからないって 首をふる あなた
わからないってことは
あなたが悪いかどうか わからないってことだ
悪いかどうかわからないのに
自分が悪いって 決めつけるなよ

あなたは 人間だ
  崇高な 人間だ
虐め逃れに
わけもなく謝ることもあるだろうけれど
自分の尊厳を 放り出してはいけない

虐める奴らは いわば けだもの
けだものに襲われたら逃げるべし
逃げる手段に
わけもなく謝ることがあるとしても
あなたは 人間だ
崇高な 人間だ
自分の尊厳を 放り出してはいけない

自分で 自分を 虐めるのは
自分の 尊厳を放り出すこと
自分で 自分を 虐めなければ
自分の尊厳は 保たれる

人から虐められたからといって
自分で 自分を 虐めてはいけない
自分の尊厳を
自分で 放り出してはいけない