詩誌「詩人散歩」(令和05年秋号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  空色のワンピースの少女       浪 宏友

小高い山の裾野
空色のワンピースの少女が立っていた
一面の菜の花畑
さんさんと降り注ぐ太陽の光の中
目を瞬きながら
緑の山を眺めていた

白波打ち寄せる海岸
空色のワンピースの少女が立っていた
どこまでも長い砂浜
きらきらと輝く沖合い
ストローハットを手で押さえながら
広い海を眺めていた

高層ビルの都会
空色のワンピースの少女が立っていた
コンクリートの街並み
ときおり自動車が通り過ぎる
ビル風にスカートの裾を靡かせて
銀杏並木を眺めていた

古びた場末
空色のワンピースの少女が立っていた
静まり返った街並み
誰もいないのか 潜んでいるのか
狭い路地に夕日が差し込むと
少女は辻を曲がって 見えなくなった

  暑い日に              中原道代

おはよう 暑いね と言いながら
ベランダの植木に
水をあげていく
春に仲間入りした
風船かずらのつるも伸びて
みんな青々と元気そう
私もコップ一杯の水を頂いて
さあ暑い一日のはじまりだ
「休み 休み ゆっくり ゆっくりだよ」
どこからか
そんな声が聞こえたような………
私は立ち止まり
大きく深呼吸をした

友から届いた一枚のはがき
暑中お見舞い申し上げます
朝顔の絵の中に
彼女のやさしさがつまっている
ありがとうと つぶやくと
涼しい風が通りすぎて行った

  言霊                伊藤一路

発する言葉の影響力は
周りに与えるだけではなく
自分に対しての影響力も大きい
ネガティブな発言
ポジティブは発言
「楽しかったけど疲れたね」
「疲れたけど楽しかったね」
この後に続く言葉と残る感情が正反対

「楽しかったけど疲れたね」
「すごく混んでたし暑かったし遠かったし・・・」

「疲れたけど楽しかったね」
「久しぶりにお友達に会えたし良い話も聞けたし
 ご飯も美味しかったよね」

ポジティブな発言が生み出す言葉は
こんな単純な発想だけで
大きな幸せを生むんじゃないのかな

  悪魔は太る            大場 惑

悪魔が太る
どんどん太る
太れば太るほど食欲が増し
もっともっとと太り続ける

悪魔の食べ物は人間が作る
人間たちの肥大化した欲望
人間たちの歪んだ欲望
人間たちの理屈の合わない自己主張
人間たちの身勝手な行動

なかでも悪魔の大好物は
人間たちのわがままな怒り
人間たちの身勝手な怒り
人間たちのわけのわからない怒り

人間たちは 自分の思い通りに事が進まないと怒る
天地がひっくり返ったように怒る

人間たちは 自分の意見が否定されると怒る
地球を引き裂こうとするように怒る

人間たちは 欲しいものが手に入らないと怒る
牙を剥いたけだもののように怒る

人間たちは 自分の欲望が満たされないと怒る
大洪水のように 大噴火のように 山崩れのように
見境なく 怒る

悪魔は そういう怒りが大好きだ
それ 御馳走だと かぶりつき
もっと怒れ もっと怒れと 人間たちをけしかける
人間たちは 怒り続けるだろうから
悪魔は 太り続けるだろう