詩誌「詩人散歩」(令和05年冬号)

yuyake

◆これまでの【詩編】を掲載しています。

  香り                浪 宏友

すれちがったとき 香りがした
なつかしい香りだった
振り返ると 女性が歩き去っていく
会ったことがある
そんな気がした 
ずっとむかし どこかで
  思い出さないまま 立ち尽くして
遠ざかっていくうしろ姿を見送った
なつかしい香りが 漂う中で

それは遠いむかしのこと
どこかで出会い
名前で呼び合うこともなく
そのまま別れて
それっきりになった

ゆるやかな風が
香りを運び去った
どこまでもまっすぐ伸びる道の先端に
女性のうしろ姿が紛れて消えた

  野ぶどう              中原道代

秋晴れの午後
ベランダの外の木陰に
今頃咲く一株の
コルチカムの花を探した
うすもも色の可憐な花
> 目をこらすが見つからない
枯れ草の下にもいない
がっかり顔の私の上で
ザワザワと音がした
見上げると
隣の敷地からフェンスを越えて
むらさき色の小さな野ぶどう達が
一斉にこちらを見ている
おじゃましてまーす!
なんて言ってるみたい
なんだか 私 うれしくなって
指先で可愛い房をそっとなでた

日が落ちて 急に寒くなった
秋の夕暮れははやい
野ぶどう達のにぎわいを
そっと胸に抱いた

  上手く乗る             伊藤一路

思い通りに物事が動く時
それは正しく動いていると考える
思ってもない方向に物事が動く時
何かすごいチャンスが待っていると考える
思い通りにならない時
何かを間違えていて正しくないと考える
意外と正解不正解の回答はその都度出ている
思い通りにならない時は振り返ってみると
必ず原因はある
昔サーフィンをやっていた
波に上手に乗るためには波に逆らえない
波を変えることもできない
ただただ今来ている波を
逆らう事なく寄り添いながら利用して楽しむ
波の大きさや形に文句を言ってる人は
一生サーフィンを楽しめない人
日常もサーフィンのように楽しんだら良い

  心配だ              大場 惑

これから絶滅してしまうかもしれない生物たち
絶滅危惧種
レッドリスト
国際自然保護連合
日本の環境省

でも 心配だ
神さまのレッドリストには
書かれているんじゃないだろうか
絶滅危惧種
ホモ・サピエンス・サピエンス
原因は 止むことなき争い

  ほんとうは            大場 惑

ほんとうは豊かな土地だったのに
人々が幸せに暮らせなくなった

いつ殺されるかわからない紛争地域
一面に地雷が埋められている平原
軍事訓練場として撤収された山間地
放射能に汚染された町や村
暴力が人々を支配する国

土地を離れてさまよう人々
ほんとうは
人々の笑顔が溢れるところだったのに