詩誌「詩人散歩」(平成12年冬号)
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 山 着                 多田エシ
木の香りただよう家に移り来て亡き夫のほゝえみうかぶ仏前かな

念願の館を建てて五月晴れ五色がなびく今日の佳き日に

山着こそ我に似合うと老いて今苗植の頃に思いけり

花達や気取って咲いてニコ/\としゃくなげ王女のコンテストか

 秋近し                 山口ハル子
ともしたる灯の向うににこにこと父と子は笑む我は経上ぐ

見ることも声聞くこともなきまゝに月日過ぎゆく夫の恋しき

遠き日を風は乗せきて泣かしむるほろほろと鳴く虫は秋近し

陽を追いて子の柔道着かわかし日ありオリンピックに遠き日を思う

訪れる人もなき午後の一時を一人軒うつ雨の音聞く

 四季の思い(秋に)           佐藤恭子
柿の実やひとつ食べたや落ちてこい待てば待つほど秋の日深し

何もない地球の果てにわれひとり生きてる様な真っ赤な夕日

父からのわけるになやむ秋の柿私へという父の心に

日和まで仏の慈悲と詠む人の心の清さなつかしくなる

ひとり寝にやねうらにすむねずみまでおどかしにくる夜更けはこわい

いつの日か別れが来るかわからないそんなあいつと出会って一年

ほほつたいあふれる涙止めもせず二十の夜は静かに更ける

ふりむけば道ができてた今日までに合掌をして明日へ旅立つ

くちきけぬ君の想いもいつの日かみんなに届け風のように