詩誌「詩人散歩」(平成22年春号)

yuyake
◆これまでの【短歌】を掲載しています。

  新しき年                  山口ハル子

 風も無く太陽は照り春が来た春が来たと口ずさむなり

 正月は兄弟集まり元気でねと酒汲みかわす元日も過ぎる

 私が一番の姉九人も育てし親を思いて手を合わす

         (母、九十一歳で逝去の折りの歌)
 まずしくて花嫁衣装もなしと聞く黄泉路へ旅立つ母に紅さす

  特養にて、私の闘病記            櫛田令子

 病(いたつき)にこもりゐる事長くして唯ひたぶるに家路を恋ふる

 (これが山崎條一様との出合でした。それより十年の月日を、特養ホームにお世話に成ることとなりました。 「歳月人を待たず」のことはざの通り、孫の晴彦が結婚し、二児の父親になりました。私は特養にある身で、 我が家では、主人と息子が結婚式に参列しました。)

 九十四の母を葬りて安らぎぬ今朝の目覚の心地かな

 うた詠みのそのはしくれの我にして時をりしのぶ今は亡き師を

 車椅子押しくれし友あり外(と)にあれば小春日和の風のやさしき

 いねさめて今日のひと日の命あり施設にありて安らげる日々

 富士登頂を果たせし若きナウスの我に賜びたり夏の赤富士

 「寒かったよ」「車びは登らないよ」と吾に送りくれし絵葉書の文字

 富士登頂を果たせし乙女よ時に羨しき是れなる吾は

 乙女汝れ若き夢今ぞ果して安かめやも