陽ざし 山口ハル子 |
葦辺より見ゆる尾鈴も美しく山は晴れいてながめていたりぬ
病む足かばいて家事をこなしゆくつゆの陽ざしはさんさんと降る
ひたすらに貧しく戦後も生きて来て背に泣きし子等よ一人は逝きぬ
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短歌 櫛田令子 |
二千九年一月十五日
いね覚めし、朝の一刻とほとかり、今日の一日を如何で過ごさむ。
亡き母の、夢路に逢へば、病みがちの、吾を守らむか、母ぞ尊き。
舌の渇き、覚えて目覚む、午前四時生の証とうべないて耐ゆ。
亡き父母の夢見し朝は、乙女のままの、思ひ溢れき。
出逢いあり、別りありしを、うべなうも、厚き介護をゆめ忘れまじ。
いねさめて、人を恋いしと思へども、ゆめ路に逢ひし友のなつかし。
せめてもの、生きるよすがの短歌(うた)にして、思ひのたけを、かきとめ置かん。
いとせめて、もゆる思いを、何かせん、一日(ひとひ)々々を生きる倖せ。
今月もまた、一人逝く特養に、吾今生きて、明日を信じぬ
一本のペン、一枚の紙ありて、今日の一と日のわれのたわむれ。
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