詩誌「詩人散歩」(平成25年夏号)

yuyake
◆これまでの【短歌】を掲載しています。

  短歌                  櫛田令子(光蛍)

堪えかねる思ひあふるる生活にも独居のままの十有余年
幾葉の枯葉残して桜木は冬の光の今かたぶきぬ
昨日今日まぶしき程の光残して冬深みゆく
朝夕の指の冷たさ身にしみて八十を生きし吾に気が付く

      ◇
膝の上で物書く事を覚えたり吾が病みてより十年余なる
我が姥は百一歳の長寿を生きて八十一才まだまだ足りぬ吾が生命なり
今日晴れて温しき光射す日なり老夫訪はむか心はずませて待つ
あけぼのの杉の黄葉色しき冬の最中の王者の如し

      ◇
今日の茶会に頂ける緑茶の色の香しきかな
桜花の間にのぞく若芽の緑春たけなわのにほいたたへて
春冷の今日台風の近づくと予報は告げり桜散る朝
桜花散るこの朝早く病友逝けり老人ホームの常の如くに

      ◇
曉暗の空に向ひて一條のかげあさひこの昇り来る見ゆ
眠られぬ一夜すごして明け近くようやくにして少し眠りぬ