詩誌「詩人散歩」(平成26年春号)

yuyake
◆これまでの【短歌】を掲載しています。

  短歌                  櫛田令子(光蛍)

     ◇雨の朝
木の葉に降る静か雨初秋の風に風情ますらむ
病友に暁に起こされ目覚めれば書読み過すは幸と思ほゆ
書を深く読むほどに何か救われる心地して繰返し読む至福を思ひぬ
     ◇
梅干の種を食みつつ大いなるかな歌人子規を思ひ出ず
桜大樹の秋来ぬと告げて居り木の葉の先は少したれたる
秋の色空は告げたり目には定かに見えねども草木は枯れぬ葉の色少し茶の色おびぬ
生きる事難しと思う朝のとまどひに唯一心に経を開けり
     ◇
車椅子おしくれし人有りベランダに出て中秋名月仰げばかそかにぞ秋風の吹く
病友は目覚めたりし気配して共に起きたる朝の光の伏床にまぶし
はらからに伝へ残さん思ひにて日毎に励む吾が命なり
昼飯にはいささか早しつかの間を詩に放ければ心安かり
     ◇
釈佛の御教へかしこみ今生きて永らう命のこの特養にあり
食堂のカーテン越しに見る桜大樹は秋の色して太陽に輝けり
秋の初めのこの色は天地自然の命しろしめし動かざる人の命の果は短くもあり
     ◇
夕空の晴れて月の出待ちにけり清風の共に月は円かに昇り来りぬ
ベランダに出て月を待つ清風と共に月は清かに我が心照らして昇り来りぬ
現身は数なき身なり老いぬれば先へすすまず今も楽しむ
     ◇
小さき畠面に日毎伸びゆく若葉色生命見つめて戦後生きぬく
富士が峯の頂きに白雪かぶり清らなる心に足りて正月迎ふ今日の良き春
元朝に富士が嶺仰ぎおせち料理を戴けり八十二歳特養に生きて

  短歌                  清水俊平

冬の夜言葉を書いて海の中言葉の海だとても広いな