短歌 櫛田令子(光蛍) |
裸木は黒く光りて寒風に揺らぎも見せず穏やかにあり 手の冷えの凍れる様な冷たさも如月半ば木々の角芽のふくらみて居り 老夫はここ一ヶ月姿を見せず恙なしやと日毎案じぬ 現身の愛しければひたすらに無心になりて朝の経誦す 真夜の夢に観音様の現れて思はず合掌す「ああ生きているのだ」 ◇ テーブルに御殿場桜活けられて一輪ざしのにほひよろしき 今日晴れて心地良きかなこの大気を吸わむ 晴れし陽を浴びて戸外を歩きたしいらだつ心経誦して静めむとする 食堂のカーテン越しに見る桜に心なごませ今日食事をす 宵やみに桜並木のうちつづくこの夕べにてすでに春ゆかむとす ◇ 新緑の目にしみて美くしかり深き緑を吾は愛しぬ 緑なす萌ゆる力のたくましき若き力の湧くを覚ゆる うらうらと春陽昇りぬ神田川に夫婦なるかや鯉の泳ぎていたり おだやかに晴れたるこの日に部屋内に吹き寄する風に眠気もよをす かそかなる風に散りぬる花弁の川面をうめて流るでもなし
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短歌 石塚和子 |
介護車の窓を透かして何時の日か別れむ夫と手をふり合ひぬ
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