短歌 櫛田令子(光蛍) |
詠うこと、しばし忘れて眠りたき、夜半に目覚めて、ラジオを聞きぬ。 いたずらに、三十一(ミソヒト)の文字残さなむ、吾も老いたり喜寿ひとつ越ゆ。 ジージーとひげ剃る音のかしましき、拡大レンズの鏡の前に。 この紙に何を証さむ、詠草(ウタ)なければ今を足らへる何ものもなき。 晩春の桜並木の陽に映えて緑は深し、美しきかな。 今日一と日、何を思ひて生きるかや短歌にはならず、ただ励むのみ。
櫛田令子(光蛍)さんは昨秋ご他界なさいました。ご冥福をお祈りしつつ、生前にお預かりした作
品を順次ご紹介させていただきたいと思います。(編集部)
|