詩誌「詩人散歩」(平成15年春号)
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  戦後の日々                       山口ハル子


 戦争も終り二年あまり音信不通であった人が二十一年四月帰って来た。一人かと問う人にうんと答えた。肩を抱きよせてくれ た。あれから五十三年。山あり谷ありの人生をけんかしたり泣いたり笑ったり二人の子供にも恵まれ戦後の貧しさにもどうにか平和に暮して過した。長い軍隊の無理がたゝったのかマラリア肋膜と病気もしたが何とか乗りこえて来た。
 今は父さんはもう居ない十一年二月足の骨折風邪を引き肺炎になり心不全にて静かに八十三歳の生涯を終えた。病院に行くと私の顔を見るとお母さんと一言何の不平不満も言わず、私もお父さんと手をにぎるとにぎりかえしてあの手の温もりは今もあたゝかい。浄土の旅もゆっくりといそがないでね。お父さん。