詩誌「詩人散歩」(平成12年冬号)
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 秋の一日                 山口ハル子

 秋風はしのびやかに吹いてきた。思い込みの日ありよろこびの日あり、たくさんの思い出をのせてこうろぎが今晩はお婆ちゃんと鳴いてくれる。一人で暮して私には虫の声も話し相手になってくれるのである。

 父さんが逝って一年七カ月。一人の暮しにも、大分なれてきたけれど時には一滴である。夢も見せてくれない逢いたいと思ふのだけど忘れられたのかと一人思う日がある。

 敬老会も踊りあり歌ありで楽しい一時であった。さて来年はと思う年になってしまった。

 テレビはオリンピックでにぎやかである。柔道で子供の高校の頃を思い出した。洗濯機もない頃でかわかすのに苦労したものだったとなつかしい。東京オリンピックには長男は聖火を持って走った。道ばたにパンパスグラスが風にゆられていた。もうあの子は世に亡き人となり遠くから母さんと言っている。

 コスモスが咲きみだれ美しい。秋の陽ざしは暖かく過ぎ去った遠い日をなつかしく思い出させてくれる。