詩誌「詩人散歩」(平成17年秋号)
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  さらば故国よ                          山口ハル子


 昭和十九年四月中国徐州より休暇で帰り又徐州へ帰る人を下関まで送って行った。戦争もきびしくなり、故国の土もふめぬかと征く人送る人の人々の中で、さらば故国よと残した言葉であった。

 二十年終戦二十一年四月無事故国の土をふんだのであった。二年あまり音信不通であった。食料事情も大変でサツマイモやカボチャなど米粒はわずかであった。とにかくも二人の子供にも恵まれ母乳は足りて日々育ってくれ高校を無事卒業し社会人となった。

 長男は二十三歳で世を去り親を悲しませた。立ち直るのには時間がかかった。

   亡き吾子の恋しく墓に詣でれば
   のどかに墓石陽を浴びており

 三十五年の歳月が過ぎたかと、早いものだと指を折る。山あり谷ありの夫婦の暮しが、五十四年が過ぎ今は一人静かに暮している。 一人の子等夫婦はやさしいので貴女はいいですねと近所の人は言ってくださる。ありがとうと何時も思って居る。