詩誌「詩人散歩」(平成18年夏号)
◆これまでの【エッセイ】を掲載しています。

  春の一日                            山口ハル子


 春が来た春が来たと歌っていた子供の頃、墓参りに行ったら土筆もあちらこちらに、北風はヒューヒューと吹き寒かったけれど、春の陽ざしは暖かい。
 墓地の入口に、子供の頃から春を忘れずに咲かせてくれる桜の老木がある。でんと太い幹に花をいっぱいつけて、窓を開けると目につく。桜さんありがとうと話しかける。
 私は旧正月のお餅をついていたら生れたようで春だからハル子でいゝよ、すぐに名前がついたようだ。
 今朝は頬が涙にぬれていたようだ。父さんと子の夢を見ていたのだ。一目でも一日でもよいから逢いたいと思う。
 ふと外を見ると小雨の中、電線にカラスが二羽むつまじく何か話しながら仲良くしている。カラスさん羨ましいよ、おばさんは一人よとつぶやく。仲良くするのは見ていて気持ちのよいものだと一人思う。春の一日もおだやかに過ぎてゆくかな。